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債務不履行に基づく損害賠償と弁護士費用


債務不履行に基づく損害賠償において、弁護士費用が損害として認められるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和3年1月22日判決

 債務不履行による損害賠償の損害として弁護士費用を請求できるか?が問題となった事案です。最高裁は、結論として、弁護士費用を損害として認めませんでした。

 この事案では、売買契約の売主が買主の債務不履行の後、債務の履行を実現するために、弁護士に依頼した報酬等を債務不履行に基づく損害賠償として請求していた事案です。問題となった弁護士費用は、債務の履行の実現のための費用ということです。

 債務不履行に基づく損害賠償でも、安全配慮義務違反に基づく損害賠償では、弁護士費用も損害として認めています(安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求と弁護士費用参照)。

 安全配慮義務違反に基づく損害賠償が事実上、不法行為に基づく損害賠償と同視でき、不法行為に基づく損害賠償が侵害された権利の回復を求めるものに対して、債務の履行に基づく請求は、契約の履行による利益を求めるという違いがあります。

事案の概要

 Yらは、平成26年7月23日、A社との間で、A社所有の本件土地を9,200万円で買い受ける売買契約を締結し、手付として500万円をA社に支払った。残代金8,700万円の支払期限は、同年9月末日とされ、残代金全額の支払時に本件土地の所有権がYらに移転するものとされ、A社は、本件土地について、A社の費用で地上建物を収去し、担保権等を消滅させ、境界を指示して測量した上で、残代金の支払と引き換えに引き渡すものとされた。

 平成26年8月5日、A社は営業を停止し、代表者が行方不明になった。Yらは、本件売買契約におけるA社の債務の履行を求めるための事務等を弁護士に委任した。

 本件弁護士は、Yらの代理人として、本件土地について、平成26年8月、処分禁止の仮処分を申立て、認容する決定が出された後、同年9月、A社に対し所有権移転登記手続を求める訴訟を提起した。その後、Yらの請求を認容する判決がされ、平成27年5月、本件土地について、Yらに対する所有権移転登記がされた。

 本件弁護士は、同年9月、Yらの代理人として、本件土地について、A社に対して地上建物を収去し明渡しを求める訴訟を提起した。その後、Yらの請求を認容する判決がされ、本件弁護士は、平成28年6月、強制執行を申立て、建物の解体撤去工事を行った業者に工事代金498万7,000円を支払った。

 本件弁護士は、平成27年8月、Yらの代理人として、本件土地に設定されていたA社を債務者とする根抵当権について、根抵当権者らに対して合計7,080万円を支払い、根抵当権設定登記が抹消された。また、本件弁護士は、同月、Xによって本件土地にされた仮差押えについて、Xに対し30万円を支払い、仮差押登記が抹消された。

 本件弁護士は、Yらの代理人として、本件土地の測量等を土地家屋調査士に依頼し、平成28年6月、費用として118万4,400円を支払った。

 その後、Xは本件売買契約の代金債権を差押え、第三債務者であるYらに対し売買代金として各1,250万円及び遅延損害金の支払を求める取立訴訟を提起した。

 Yらは、平成30年8月、原審の弁論準備手続期日で、A社が本件売買契約締結後10日余りで営業を停止するなどしたことにより債務不履行等が成立し、Yらが本件弁護士に本件各事務を委任したことによる弁護士報酬その他Yらが負担した費用について債務不履行等に基づく損害賠償請求権を有すると主張し、Xに対し、損賠賠償債権と本件売買契約の残代金債権を対当額で相殺する旨の意思表示を行った。

原審の判断

 原審は、弁護士報酬について、YらはA社に対し債務不履行に基づく損賠賠償請求権を有すると判断し、本件売買契約の残代金債権との相殺を認めました。

最高裁の判断

 最高裁は,以下のように,弁護士報酬と本件売買契約の残代金債権との相殺は認めませんでした。つまり,債務不履行に基づく損害賠償として,弁護士費用を請求できないと判断しました。

 契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と異なり,侵害された権利利益の回復を求めるものではなく,契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものである。

 契約を締結しようとする者は,任意の履行がされない場合があることを考慮して,契約内容を検討したり,契約を締結するかどうかを決定したりすることができる。

 本件土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務は,売買契約から一義的に確定するものであって,債務の履行を求める請求権は,契約の成立という客観的な事実によって基礎づけられるものである。

 土地の売買契約の買主は,債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても,売主に対し,これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない。


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