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侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合の正当防衛の成否


正当防衛の要件の一つである「急迫性」の判断に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁平成29年4月26日決定

 この判決の事案の概要は、次のとおりです。

 被告人は、知人であるAから、不在中の自宅マンションの玄関扉を消火器で何度もたたかれ、その後、十数回にわたり電話で、「今から行ったるから待っとけ。けじめとったるから。」と怒鳴られたり、仲間と共に攻撃を加えると言われたりするなど、身に覚えのない因縁を付けられ、立腹していた。

 被告人が、自宅にいると、Aから、マンションの前に来ているから降りて来るようにと電話で呼び出されたので、被告人は、自宅にあった包丁にタオルを巻いて、ズボンの腰部右後ろに差し挟んで、自宅マンション前に降りて行った。

 被告人を見付けたAがハンマーを持って被告人の方に駆け寄って来たが、被告人は、Aに包丁を示すなどの威嚇的行動を取ることなく、歩いてAに近づき、ハンマーで殴りかかって来たAの攻撃を、腕を出し腰を引くなどして防ぎながら、包丁を取り出すと、殺意をもって、Aの左側胸部を包丁で1回強く突き刺して殺害した。

争点は?

 以上の事実関係を前提に、被告人に正当防衛(刑法36条1項)が成立するか?が争点です。

 そもそも、正当防衛が成立するための要件は、①急迫②不正の侵害に対して、③自己又は他人の権利を④防衛するため⑤やむを得ずにした行為であることが必要です。

(正当防衛)

第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 本判決では、上記の正当防衛の要件のうち、①の侵害の急迫性が問題になった事案です。

侵害の急迫性

 正当防衛の要件の中で、実務的に重要なのが急迫性の要件です。急迫性とは不正な侵害が「現に存するか、または、切迫していること」をいいます(最高裁昭和46年11月16日判決)。

 したがって、過去の侵害・将来の侵害に対して、正当防衛は認められません。では、侵害が現存していればいいのでしょうか?そうではないというのが判例の立場です。

 たとえば、挑発行為などで、自ら侵害を招いたような場合は、正当防衛は認められません(最高裁昭和23年7月7日大法廷判決)。

 さらに、侵害を予期していた場合、判例は急迫性を否定していました(最高裁昭和30年10月25日判決)。その後、単に侵害を予期していただけではなく、積極的加害意思がある場合に限って、急迫性の要件を欠くと判断するようになりました(最高裁昭和52年7月21日決定)。

最高裁の判断

 最高裁は,次のように判断し,侵害の急迫性がないとして,正当防衛の成立を否定しました。

 刑法36条の正当防衛は,急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。

 したがって,行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,侵害を予期していたことから,直ちにこれが失われると解すべきではなく(最高裁昭和46年11月16日第三小法廷判決),対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきである。

 具体的には,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだとき(最高裁昭和52年7月21日第一小法廷決定)など,前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。

 本件の事実関係によれば,被告人は,Aの呼出しに応じて現場に赴けば,Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら,Aの呼出しに応じる必要がなく,自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず,包丁を準備した上,Aの待つ場所に出向き,Aがハンマーで攻撃してくるや,包丁を示すなどの威嚇的行動を取ることもしないままAに近づき,Aの左側胸部を強く刺突したものと認められる。

 このような先行事情を含めた本件行為全般の状況に照らすと,被告人の本件行為は,刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとは認められず,侵害の急迫性の要件を充たさない。


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