同一労働同一賃金に関する最高裁判決

同一労働同一賃金に関する最高裁判決を紹介します。

大阪医科薬科大学事件(最高裁令和2年10月13日判決)

 同一労働同一賃金に関する最高裁判決です。有期労働契約を締結した労働者が,無期労働契約の正社員との間で,賞与・私傷病による欠勤中の賃金に相違があるのは,労働契約法旧20条に違反すると主張した事案です。

争点

 労働契約法旧20条は,有期労働契約と無期労働契約との間で,労働条件に相違がある場合,その相違が不合理なものであってはならないと規定しています。

 法改正により,現在は,パート・有期法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)8条で,短時間・有期労働契約と正社員との間の不合理な待遇の相違を禁止しています。

 同一労働同一賃金は,この不合理な待遇の相違に該当するのか?という問題です。同一労働同一賃金に関する事案は,①誰と誰を比較するのか?②①の比較対象者間にどのような待遇の差があるのか?が重要です。

①誰と誰の比較

 本件では,アルバイト職員と教室事務職員である正社員が比較対象となっています。

②比較対象者間の待遇の差

 本件では,アルバイト職員には,賞与が支給されないことと,私傷病による欠勤中に賃金が支給されないことが,不合理な取扱いかどうか?が問題になりました。

事案の概要

 第1審被告は,大阪医科大学・同大学附属病院等を運営している学校法人であり,平成28年4月1日,学校法人大阪薬科大学と合併した。

 第1審原告は,平成25年1月29日,第1審被告との間で契約期間を同年3月31日までとする有期労働契約を締結し,アルバイト職員として勤務した。その後,第1審原告は,契約期間を1年として上記契約を3度にわたって更新し,平成28年3月31日をもって退職した。なお,第1審原告は,平成27年3月に適応障害と診断され,同月9日から上記の退職日まで出勤せず,同年4月から5月にかけての約1か月間は年次有給休暇を取得した扱いとなり,その後は欠勤扱いとなった。

 第1審原告が在籍した当時,第1審被告には,事務系の職員として正職員,契約職員,アルバイト職員及び嘱託職員が存在したが,このうち無期労働契約を締結している職員は正職員のみであった。また,正職員と契約職員は月給制,嘱託職員は月給制又は年俸制であった。これに対し,アルバイト職員は時給制であり,このうち正職員と同一の所定労働時間である者の数は4割程度であり,短時間勤務の者の方が多かった。平成27年3月時点において,第1審被告の全職員数は約2,600名であり,このうち事務系の職員は,正職員が約200名,契約職員が約40名,アルバイト職員が約150名,嘱託職員が10名弱であった。

正社員の給与等

 第1審原告が在籍した当時,正職員には,正職員就業規則のほか,就業規則の性質を有する正職員給与規則及び正職員休職規程が適用されていた。これらの規則等に基づき,正職員には,基本給,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における賃金,年次有給休暇(正職員就業規則の定める日数),夏期特別有給休暇,私傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置が支給又は付与されていた。正職員給与規則上,基本給は,採用時の正職員の職種,年齢,学歴,職歴等をしんしゃくして決定するものとされ,勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされていた。また,賞与に関しては,第1審被告が必要と認めたときに臨時又は定期の賃金を支給すると定められているのみであった。

アルバイト職員の給与等

 上記の当時,アルバイト職員には,アルバイト職員就業内規が適用されていた。アルバイト職員就業内規に基づき,アルバイト職員には,時給制による賃金の支給及び労働基準法所定の年次有給休暇の付与がされていたが,賞与,年末年始及び創立記念日の休日における賃金,その余の年次有給休暇,夏期特別有給休暇,私傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置は支給又は付与されていなかった。アルバイト職員就業内規上,賃金は,職種の変更等があった場合に時給単価を変更するものとされ,昇給の定めはなかった。

正社員の業務等

 正職員は,本件大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり,その業務の内容は,配置先によって異なるものの,総務,学務,病院事務等多岐に及んでいた。正職員が配置されている部署においては,定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占め,中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ,業務に伴う責任は大きいものであった。また,正職員就業規則上,正職員は,出向や配置換え等を命ぜられることがあると定められ,人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われており,平成25年1月から同27年3月までの間においては約30名の正職員がその対象となっていた。

アルバイト職員の業務等

 一方,アルバイト職員は,アルバイト職員就業内規上,雇用期間を1年以内とし,更新する場合はあるものの,その上限は5年と定められており,その業務の内容は,定型的で簡便な作業が中心であった。また,アルバイト職員については,アルバイト職員就業内規上,他部門への異動を命ずることがあると定められていたが,業務の内容を明示して採用されていることもあり,原則として業務命令によって他の部署に配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情によるものに限られていた。なお,契約職員は正職員に準ずるものとされ,第1審被告において,業務の内容の難度や責任の程度は,高いものから順に,正職員,嘱託職員,契約職員,アルバイト職員とされていた。

正社員等への登用制度

 第1審被告においては,アルバイト職員から契約職員,契約職員から正職員への試験による登用制度が設けられていた。前者については,アルバイト職員のうち,1年以上の勤続年数があり,所属長の推薦を受けた者が受験資格を有するものとされ,受験資格を有する者のうち3~5割程度の者が受験していた。平成25年から同27年までの各年においては16~30名が受験し,うち5~19名が合格した。また,後者については,平成25年から同27年までの各年において7~13名が合格した。

教室事務職員の業務等

 本件大学には,診療科を持たない基礎系の教室として,生理学,生化学,薬理学,病理学等の8教室が設置され,教室事務を担当する職員(以下「教室事務員」という。)が1,2名ずつ配置されており,平成11年当時,正職員である教室事務員が9名配置されていた。教室事務員については,その業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため,第1審被告は,平成13年頃から正職員を配置転換するなどしてアルバイト職員に置き換え,同25年4月から同27年3月までの当時,正職員は4名のみであった。これらの正職員のうち3名は教室事務員以外の業務に従事したことはなかったところ,正職員が配置されていた教室では,学内の英文学術誌の編集事務や広報作業,病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等が存在しており,第1審被告が,アルバイト職員ではなく,正職員を配置する必要があると判断していたものであった。

 第1審原告が平成25年1月に締結した有期労働契約では,就業場所は本件大学薬理学教室,主な業務の内容は薬理学教室内の秘書業務,賃金は時給950円であった。同契約は,同年4月以降に3度にわたって更新され,その際,時給単価が若干増額されることがあった。もっとも,具体的な職務の内容に特段の変更はなく,その業務の内容は,所属する教授や教員,研究補助員のスケジュール管理や日程調整,電話や来客等の対応,教授の研究発表の際の資料作成や準備,教授が外出する際の随行,教室内における各種事務(教員の増減員の手続,郵便物の仕分けや発送,研究補助員の勤務表の作成や提出,給与明細書の配布,駐車券の申請等),教室の経理,備品管理,清掃やごみの処理,出納の管理等であった。また,第1審原告の所定労働時間はフルタイムであった。そして,第1審被告は,第1審原告が多忙であると強調していたことから,第1審原告が欠勤した際の後任として,フルタイムの職員1名とパートタイムの職員1名を配置したが,恒常的に手が余っている状態が続いたため,1年ほどのうちにフルタイムの職員1名のみを配置することとした。

第1審原告と正社員の労働条件の相違

 第1審原告の平成25年4月から同26年3月までの賃金の平均月額は14万9,170円であり,同期間を全てフルタイムで勤務したとすると,その賃金は月額15~16万円程度であった。これに対し,平成25年4月に新規採用された正職員の初任給は19万2,570円であり,第1審原告と同正職員との間における賃金(基本給)には2割程度の相違があった。 

 第1審被告においては,正職員に対し,年2回の賞与が支給されていた。平成26年度では,夏期が基本給2.1か月分+2万3,000円,冬期が同2.5か月分+2万4,000円,平成22,23及び25年度では,いずれも通年で基本給4.6か月分の額が支給されており,その支給額は通年で同4.6か月分が一応の基準となっていた。また,契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていた。これに対し,アルバイト職員には賞与は支給されていなかった。なお,アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額は,平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額の55%程度の水準であった。

 第1審被告においては,正職員が私傷病で欠勤した場合,正職員休職規程により,6か月間は給料月額の全額が支払われ,同経過後は休職が命ぜられた上で休職給として標準給与の2割が支払われていた。これに対し,アルバイト職員には欠勤中の補償や休職制度は存在しなかった。