労基法20条、26条、37条の規定に違反した使用者、39条7項の賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により裁判所が支払いを命じることができると規定しています。これが付加金です。
付加金の支払
付加金の支払いを命じる判決の言渡しがあっても、使用者が判決確定までに義務違反を消滅させれば、付加金を支払う必要はないと解されています。
では、そもそも、判決言渡しの基準時である事実審の口頭弁論終結前に使用者が、義務違反を消滅させた場合、裁判所は付加金の支払を命じることができるのでしょうか?
最高裁平成26年3月6日判決
未払賃金の支払とともに、未払割増賃金(残業代)と付加金の支払を使用者に求めた事案です。
事案の概要
被上告人は、第1審係属中の平成22年10月18日、上告人に対し、反訴請求として、未払割増賃金181万6,902円及びこれに対する同年3月1日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、未払割増賃金に係る労働基準法114条の付加金124万2,344円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
第1審は、本件割増賃金請求につき、173万1,919円及びこれに対する平成22年3月1日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容するとともに、本件付加金請求につき、86万5,960円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容する旨の判決をした。これに対し、上告人のみが控訴を提起した。
上告人は、原審の口頭弁論終結前である平成24年7月19日、被上告人に対し、本件割増賃金請求につき第1審判決が認容した金額の全額を支払い、被上告人はこれを受領した。これを受けて、被上告人は、本件割増賃金請求に係る訴えを取り下げ、上告人はこれに同意した。
原審の判断
以上の事実経過を前提に、原審は、付加金請求につき、86万5,960円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を認めました。
最高裁の判断
最高裁は次のように述べ,本件において付加金の支払を命じることはできないと判断しました。
労働基準法114条の付加金の支払義務は,使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然発生するものではなく,労働者の請求により裁判所が付加金の支払を命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから,使用者に同法37条の違反があっても,裁判所がその支払を命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには,もはや,裁判所は付加金の支払を命ずることができなくなる。
本件においては,原審の口頭弁論終結前の時点で,上告人が被上告人に対し未払割増賃金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したものであるから,もはや,裁判所は,上告人に対し,上記未払割増賃金に係る付加金の支払を命ずることができない。