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定年後再雇用と同一労働同一賃金


定年後再雇用の同一労働同一賃金を検討します。

定年後再雇と同一労働同一賃金

 定年退職後に、再雇用された労働者は、会社と有期労働契約を締結することがほとんどでしょう。有期雇用労働者である以上、パート有期法8条の対象です。したがって、正社員と定年後再雇用労働者との間の不合理な待遇の相違は、違法です。

 もっとも、定年後再雇された労働者の待遇が正社員と異なっているからといって、直ちに不合理と判断されるわけではありません。

最高裁の考え方

 定年後再雇労働者について、定年後再雇であることを理由に待遇を低くすることが労働契約法旧20条下で許されるか?が争われたのが、長澤運輸事件最高裁判決です。

 最高裁は、定年後再雇の有期雇用労働者は、長期雇用を予定しておらず、定年退職までは、正社員として待遇を受け、定年退職後に老齢厚生年金を受給することが予定されていることを、不合理性の判断において、「その他の事情」として考慮することを認めました。

 その上で、最高裁は、①基本給相当額の差が正社員の2%~12%にとどまっていること、②賞与を含む年収の差が正社員の21%程度であること、③団体交渉を経て、老齢厚生年金報酬比例部分の支給開始時まで2万円の調整給を支給していることから、不合理な相違ではないと判断しています。

 もっとも、不合理性は、個々の待遇ごとに、その性質・目的に基づいて判断されます。したがって、性質・目的が定年後再雇と関連性がない待遇については、正社員と同じ待遇をする必要があります。最高裁は、皆勤の奨励という精勤手当の趣旨は、定年後再雇かどうかにかかわりなく、同様に及ぶので、定年後再雇労働者に精勤手当を支給しないのは、不合理だと判断しています。

下級審の裁判例

 東京地裁平成30年4月11日判決は、定年後の嘱託教諭の賃金が定年前の6割程度であっても、労働組合との交渉・合意を経ているので、不合理ではないと判断しています。

 東京地裁平成30年11月21日判決は、定年後の嘱託社員の賃金が定年退職時の54%であることについて、職務内容が大きく異なること、職務内容・配置変更範囲に差異があり、職務内容が近い正社員と比べると、それほど低くないことから、不合理ではないと判断しています。

 富山地裁平成30年12月19日判決は、定年後再雇労働者と正社員との27%の相違について、労働組合との労使交渉を経て決まったこと、職務内容,職務内容・配置変更範囲の差異,退職金2000万円を受給していること、再雇用労働者の月収は企業年金等を加えると正社員と上回ることなどから、不合理ではないと判断しています。

 名古屋地裁令和2年10月28日判決は、定年後の嘱託職員の基本給が定年退職時の45%以下になっていることについて、職務内容・配置変更範囲に相違がないこと、年功賃金下で賃金が抑制されている若年正社員の基本給を下回っていること、労使交渉の結果が反映されたわけではないことから、退職金をもらっていること、給付金や老齢厚生年金の報酬比例部分を受給できたことを踏まえても、定年退職時の60%を下回る限度で不合理だと判断しています。

 最高裁も下級審の判決も明言していませんが、定年後再雇については、定年退職時の60%を下回ると不合理だという基準ができ始めているのでは?と言われています。

 最高裁令和5年7月20日判決は、原審が基本給の60%を下回る部分を違法と判断したのに対し、最高裁は、基本給・賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて労働契約法旧20条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理かどうか?を判断するとしています。つまり、機械的に60%を下回ったから不合理だとはいえないということになります。

 また、定年後再雇について、不合理性の判断に労使交渉の結果や労使間の合意が反映されているか?を重視していることも注目すべき点です。

ガイドラインの考え方

 同一労働同一賃金は、定年後再雇について、以下のような基本的な考え方を示しています。

 定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者も、パート有期法の適用を受ける。このため、正社員と定年後に継続雇用された有期雇用労働者との間の賃金の相違については、実際に両者の間に職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の相違がある場合は、その相違に応じた賃金の相違は許容される。

 また、有期雇用労働者が定年後に継続雇用された者であることは、正社員と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たり、パート有期法8条の「その他の事情」として考慮される事情に当たりうる。

 定年後に有期雇用労働者として継続雇用する場合の待遇について、様々な事情が総合的に考慮されて、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かが判断される。したがって、当該有期雇用労働者が定年後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに正社員と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理ではないと認められるものではない。

実務の傾向

 高齢者雇用安定法が改正され,70歳までの就労確保措置が努力義務とされました。また,雇用保険法改正により,高齢者雇用継続給付が賃金額の10%に引き下げられます。さらに,在職老齢年金が見直されるという法改正が行われています。

 企業では,65歳への定年延長や65歳以降の再雇用による就労確保を進める動きが出てきています。

 また,60歳~65歳の賃金の下げ幅を縮小して,高齢者の待遇改善,能力活用を図る動きでも進んでいます。

 これらと並行して,中高年層の賃金カーブをフラット化することが進められようとしています。つまり,全体として,年功序列の賃金制度から能力や成果に応じて賃金制度に移行してきています。


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