同一労働同一賃金に関する最高裁判決を紹介します。
日本郵便事件②(最高裁令和2年10月15日判決)
有期労働契約を締結した労働者が、無期労働契約を締結した労働者のみに対して、私傷病による病気休暇として有給休暇等が与えられているのは、労働契約法旧20条違反だと主張した事案です。
争点
労働契約法旧20条は、無期労働契約と有期労働契約の労働者間の労働条件の不合理な相違を禁止しています。いわゆる同一労働同一賃金の根拠となる条文です。同一労働同一賃金に関する問題は、①誰と誰を比較するのか?と②どんな待遇の差があるのか?が重要です。
①誰と誰を比較するのか?
郵便業務を担当している正社員と時給制契約社員
②どんな待遇の差があるのか?
正社員のみ年末年始勤務手当が支給される。正社員のみ有給休暇である私傷病による病気休暇がある。
事案の概要
当事者
第1審被告は、国及び日本郵政公社が行っていた郵便事業を承継した郵便局株式会社及び郵便事業株式会社の合併により、平成24年10月1日に成立した株式会社であり、郵便局を設置して、郵便の業務、銀行窓口業務、保険窓口業務等を営んでいる。
第1審原告X1及び第1審原告X2は、いずれも、国又は日本郵政公社に有期任用公務員として任用された後、平成19年10月1日、郵便事業株式会社との間で有期労働契約を締結し、同社及び第1審被告との間でその更新を繰り返して勤務する時給制契約社員である。また、第1審原告X3は、平成20年10月14日、郵便事業株式会社との間で有期労働契約を締結し、同社及び第1審被告との間でその更新を繰り返して勤務する時給制契約社員である。第1審原告X1及び第1審原告X3は、郵便外務事務(配達等の事務)に従事し、第1審原告X2は、郵便内務事務(窓口業務、区分け作業等の事務)に従事している。
第1審被告に雇用される従業員には、無期労働契約を締結する正社員と有期労働契約を締結する期間雇用社員が存在し、それぞれに適用される就業規則及び給与規程は異なる。
正社員の勤務時間等
正社員に適用される就業規則において、正社員の勤務時間は、1日について原則8時間、4週間について1週平均40時間とされている。
平成26年3月31日以前の旧人事制度において、正社員は、企画職群、旧一般職及び技能職群に区分され、このうち郵便局における郵便の業務を担当していたのは旧一般職であった。
そして、平成26年4月1日以後の新人事制度において、正社員は、管理職、総合職、地域基幹職及び新一般職の各コースに区分され、このうち郵便局における郵便の業務を担当するのは地域基幹職及び新一般職である。
期間雇用社員の勤務時間等
期間雇用社員に適用される就業規則において、期間雇用社員は、スペシャリスト契約社員、エキスパート契約社員、月給制契約社員、時給制契約社員及びアルバイトに区分されており、それぞれ契約期間の長さや賃金の支払方法が異なる。このうち時給制契約社員は、郵便局等での一般的業務に従事し、時給制で給与が支給されるものとして採用された者であって、契約期間は6か月以内で、契約を更新することができ、正規の勤務時間は、1日について8時間以内、4週間について1週平均40時間以内とされている。
正社員の給与規程
正社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規程において、郵便の業務を担当する正社員の給与は、基本給と諸手当で構成されている。諸手当には住居手当、祝日給、特殊勤務手当、夏期手当、年末手当等がある。このうち特殊勤務手当は、著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要とし、かつ、その特殊性を基本給で考慮することが適当でないと認められるものに従事する正社員に、その勤務の特殊性に応じて支給するものとされている。特殊勤務手当の一つである年末年始勤務手当は、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであり、その額は、12月29日から同月31日までは1日につき4,000円、1月1日から同月3日までは1日につき5,000円であるが、実際に勤務した時間が4時間以下の場合は、それぞれその半額である。
また、正社員に適用される就業規則では、郵便の業務を担当する正社員に夏期冬期休暇及び病気休暇が与えられることとされている。夏期休暇は6月1日から9月30日まで、冬期休暇は10月1日から翌年3月31日までの各期間において、それぞれ3日まで与えられる有給休暇である。病気休暇は、私傷病等により、勤務日又は正規の勤務時間中に勤務しない者に与えられる有給休暇であり、私傷病による病気休暇は少なくとも引き続き90日間まで与えられる。
期間雇用社員の給与規程
期間雇用社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規程において、郵便の業務を担当する時給制契約社員の給与は、基本賃金と諸手当で構成されている。諸手当には、祝日割増賃金、特殊勤務手当、臨時手当等がある。もっとも、上記時給制契約社員に対して年末年始勤務手当は支給されない。
また、上記時給制契約社員には、夏期冬期休暇が与えられない一方、期間雇用社員に適用される就業規則において、病気休暇が与えられることとされているが、私傷病による病気休暇は1年に10日の範囲で無給の休暇が与えられるにとどまる。
昇任・昇給、人事評価、登用制度等
旧一般職及び地域基幹職は、郵便外務事務、郵便内務事務等に幅広く従事すること、昇任や昇格により役割や職責が大きく変動することが想定されている。他方、新一般職は、郵便外務事務、郵便内務事務等の標準的な業務に従事することが予定されており、昇任や昇格は予定されていない。
また、正社員の人事評価においては、業務の実績そのものに加え、部下の育成指導状況、組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか、自己研さん、状況把握、論理的思考、チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。
これに対し、時給制契約社員は、郵便外務事務又は郵便内務事務のうち、特定の業務のみに従事し、上記各事務について幅広く従事することは想定されておらず、昇任や昇格は予定されていない。
また、時給制契約社員の人事評価においては、上司の指示や職場内のルールの遵守等の基本的事項に関する評価が行われるほか、担当する職務の広さとその習熟度についての評価が行われる一方、正社員とは異なり、組織全体に対する貢献によって業績が評価されること等はない。
旧一般職を含む正社員には配転が予定されている。ただし、新一般職は、転居を伴わない範囲において人事異動が命ぜられる可能性があるにとどまる。
これに対し、時給制契約社員は、職場及び職務内容を限定して採用されており、正社員のような人事異動は行われず、郵便局を移る場合には、個別の同意に基づき、従前の郵便局における雇用契約を終了させた上で、新たに別の郵便局における勤務に関して雇用契約を締結し直している。時給制契約社員に対しては、正社員に登用される制度が設けられており、人事評価や勤続年数等に関する応募要件を満たす応募者について、適性試験や面接等により選考される。
原審の判断
原審は,郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,同業務を担当する時給制契約社員である第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違及び私傷病による病気休暇として,上記正社員に対しては有給休暇を与えるものとする一方で,上記時給制契約社員である第1審原告X2に対しては無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違について,いずれも労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断しました。
最高裁の判断
最高裁は,年末年始勤務手当・病気休暇の差は,労働契約法旧20条の不合理に当たると判断しました。
年末年始勤務手当について
第1審被告における年末年始勤務手当は,郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり,12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると,同業務についての最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また,年末年始勤務手当は,正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず,所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり,その支給金額も,実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。
上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば,これを支給することとした趣旨は,郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。そうすると,郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。
したがって,郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で,同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
病気休暇について
有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であるところ,賃金以外の労働条件の相違についても,同様に,個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
第1審被告において,私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように,継続的な勤務が見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは,使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも,上記目的に照らせば,郵便の業務を担当する時給制契約社員についても,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして,第1審被告においては,上記時給制契約社員は,契約期間が6か月以内とされており,第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど,相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると,上記正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても,私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく,これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは,不合理であると評価することができるものといえる。
したがって,私傷病による病気休暇として,郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与えるものとする一方で,同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。