労働契約法旧20条に違反したことにより、賃金支払債務が不履行となった場合に不法行為が成立するか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁令和8年2月13日判決
有期労働契約の労働者が労働契約に基づく一時金を支払わなかったことにより損害を被ったとして、会社に対して、不法行為に基づき、一時金相当額の損害賠償を請求した事案です。
労働契約法旧20条に関する同一労働同一賃金の事案です。正社員と非正規労働者間の待遇の相違が、労働契約法旧20条若しくはパート有期法8条又は9条に違反している場合、非正規労働者は、会社に対して損害賠償請求できるのか?という問題です。
事案の概要
Yが雇用する労働者は、従前、期間の定めのない労働契約を締結した正社員と期間の定めのある労働契約を締結した準社員とに区分され、正社員には正社員就業規則が、準社員には準社員就業規則が適用されていた。
Yは、Xらを新たに設ける区分である有期雇用契約社員として雇用することとし、平成22年1月1日から平成23年9月1日までの間に、Xらとの間で契約期間を6か月とする労働契約を締結した。
上記労働契約において、Xらの労働条件は有期雇用契約社員就業規則による旨が定められていたが、Yが同就業規則を作成したのは同年11月3日であった。
準社員就業規則は準社員に対する一時金に関する定めを置いていたのに対し、有期雇用契約社員就業規則は有期雇用契約社員に対する一時金に関する定めを置いていなかった。
原審の判断
原審は、Xらには平成23年11月2日までは準社員就業規則が適用されるという前提で、以下のように判断しました。
Yは、同日まではXらを準社員と扱うべきであったのに、これに反して一時金を支給しなかったから、Xらに対し、不法行為に基づき、一時金相当額及び弁護士費用相当額の損害賠償義務を負う。
最高裁の判断
Xらの一時金に係る損害賠償請求は、Xらに準社員就業規則が適用され、一時金の支払を求める具体的請求権(労働契約に基づく賃金債権)を有していたことを前提とした上で、Yがその支払債務の履行を怠ったことが不法行為に該当するとして、一時金相当額等の損害賠償を求めるものである。
しかしながら、Xらが上記賃金債権を有するのであれば、Yにおいてその支払債務を履行しなかったとしても、契約に基づく金銭債務の不履行となるにすぎず、当該不履行自体は債権者の不法行為法上の権利利益を侵害するものではないから、一時金が支払われなかったからといって不法行為が成立するものではない。本件において、Xらは、専ら一時金が支払われなかったことをもって不法行為に該当すると主張するものであり、契約責任(債務不履行)のほかに、不法行為責任が問題になる余地はない。
したがって、Xらは、Yに対し、Yによる一時金の支払債務の不履行を理由として、一時金相当額を不法行為に基づく損害賠償として請求することはできないというべきである。