LPガス供給契約を短期間で解約した場合に設備費用を支払わせる条項が消費者契約法に違反するか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁令和7年12月23日判決
LPガスの供給契約において、短期間で解約した場合に設備の設置費用を支払わせる条項が消費者契約法に違反するか?が問題になりました。

同日のLPガスの配管設備が建物に付合すると判断した最高裁判決は、以下の記事参照
事案の概要
Xは、液化石油ガス(「LPガス」)の供給等を業とする株式会社である。
Xは、令和元年頃、A社が販売する戸建て住宅にLPガスの消費設備に係る配管及びガス栓を設置したが、本件消費設備の部品代金や設置費用、給湯器やそのリモコンの設置費用等をA社に請求しなかった。
Yは、令和元年6月、A社から本件住宅を購入した。その際、A社は、Yに対し、A社が指定するLPガス販売事業者であるXからLPガスの供給を受ける必要があるなどと説明した。
Yは、令和元年7月、Xとの間でLPガスの供給等に関する本件供給契約を締結し、本件住宅へのLPガスの供給を受けるようになった。本件供給契約に係る契約書には、次のような条項がある。
①Xが本件住宅にLPガスを供給する期間は、供給開始日から10年以上とする。
②Xが負担した本件設置費用は21万円(消費税込み)であり、YがXから本件住宅へのLPガスの供給を受けている間、Xはこれを請求しない。
③Yは、供給開始日から10年経過前に本件住宅へのLPガスの供給を終了させる場合、本件設置費用に関し、Xに対し、次の算定式で得られた本件算定額を、供給終了後、直ちに支払う(「本件条項」)。
(算定式)
21万円-{21万円×0.9×(供給開始日から供給終了日までの経過月数/120)}
本件消費設備は、本件住宅に付合しており、本件供給契約が締結される前からYがこれを所有している。
Yは、令和3年6月、Xに代わってB社から本件住宅へのLPガスの供給を受けることとし、Xからの供給は終了した。
Xは、本件条項は、本件設置費用に関し、Yに本件算定額の支払義務があることを定めた合意であると主張し、Yに対し、本件算定額である17万3,775円及び遅延損害金の支払を求めた。
Yは、本件条項は、消費者契約法(令和4年法律第59号による改正前のもの。)9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に当たり、本件供給契約と同種の消費者契約の解除に伴ってXに生ずべき平均的な損害は存せず、その全部が無効になると主張し争った。
原審の判断
本件条項は、10年間にわたってYからXに対して支払われるガス料金の中から回収することが予定されていた本件設置費用について、その未回収分をYにおいて支払う旨の合意であって、違約金等条項に当たらないと判断し、Xの請求を認容した。
最高裁の判断
最高裁は、まず、本件条項は違約金等条項に当たると判断しました。その上で、本件条項の全部について消費者契約法9条1号により無効だと判断しました。
Xは、本件住宅に本件消費設備等を設置しながら、A社に対して本件設置費用を請求しておらず、Yは、本件住宅の購入に当たってA社よりXからLPガスの供給を受ける必要がある旨説明を受けていた。このことからすると、Xは、A社の協力の下に、本件住宅を購入した者との間で優先的にLPガスの供給契約の締結について交渉することができる事実上の地位を確保するため、自らの判断で本件設置費用をA社に請求しなかったということができる。また、Xは、Yと本件供給契約を締結するに当たり、YがXからLPガスの供給を受けている間はYに本件設置費用を請求しないこととするとともに、本件条項により、Yが供給開始日から10年経過前に本件供給契約を終了させる場合は、経過期間に応じて本件設置費用に関して支払われるべき本件算定額を逓減させることとしていたが、これらは、本件供給契約を締結するようにYを誘引し、併せて本件供給契約が短期間で解約されることを防止し、本件供給契約を長期間維持するためのものであったといえる。このような本件供給契約の締結に至るまでの経緯及び本件供給契約の内容からすると、本件設置費用は、本件供給契約を獲得し、これを長期間維持するために先行投資された費用ということができる。
また、本件条項は、一見すると、本件消費設備等の設置の対価として本件算定額の支払義務を定め、Yが10年間にわたってXに支払うガス料金から本件設置費用を回収することを予定するものであったようにもみえる。しかしながら、本件供給契約上、本件算定額は供給開始日から10年が経過するまでの間において1か月ごとに一定額ずつ減少するとされているものの、10年経過後にはYがXに支払うべきガス料金が減額されるという定めはなく、本件設置費用とガス料金との関係は明確にされておらず、本件設置費用がガス料金から回収されることになっていたのかも明らかではない。このような本件供給契約の内容に加え、Xが、本件供給契約と同種のLPガスの供給契約を多数締結しているLPガス販売事業者であることからすると、Xにおいては、既に消費設備の設置費用の回収が終わっている契約者に対し、従前と同様のガス料金を設定するなどし、他の契約者の消費設備の設置費用を負担させることができるような料金体系となっていて、実際には、Yのみならず、契約者全体から得られるガス料金から本件設置費用を回収する仕組みとなっていたことがうかがわれる。これらのことからすると、本件算定額が本件消費設備等の設置の対価といえるものかどうかは明らかではないといわざるを得ない。
以上からすると、本件条項は、本件消費設備等の設置の対価を定めたものではなく、本件供給契約が供給開始日から10年経過前に解約されるなどしてXがその後のガス料金を得られなくなった場合に本件算定額の支払義務を負わせることで、短期間の解約が生ずることを防止し、本件供給契約を長期間維持することを図るとともに、併せて先行投資された本件設置費用に関してXが被る可能性のある損失を補てんすることも目的の一つとするものというべきであり、実質的にみると、解除に伴う損害賠償の額の予定又は違約金の定めとして機能するものということができる。したがって、本件条項は、違約金等条項に当たるというべきである。
本件条項が違約金等条項に当たることからすると、本件算定額の全部又は一部が、本件供給契約と同種の消費者契約の解除に伴いXに生ずべき平均的な損害、すなわち、一人の消費者とXとの間で、本件供給契約と同種のLPガスの供給契約が解除されることによってXに一般的、客観的に生ずると認められる損害の額を超えるものである場合、本件条項は当該超える部分について消費者契約法9条1号により無効となる。そして、この点について、本件条項の目的の一つが、先行投資された本件設置費用に関してXが被る可能性のある損失を補てんすることにあることからすると、LPガスの供給契約が解除されてそれ以降のガス料金を得られなくなると、Xにおいて先行投資費用として負担した消費設備に係る設置費用の未回収分の損害が生じたようにみえなくもない。
しかしながら、上記のとおり、供給開始日から10年が経過してもYがXに支払うべきガス料金が減額されることになっておらず、本件設置費用とガス料金との関係が不明確なものとされていたという本件供給契約の内容等からすると、Xにおいて、ある契約者に係る消費設備の設置費用は、契約者全体から得られるガス料金から回収する仕組みとなっていたものというべきである。このことに加え、本件供給契約と同種のLPガスの供給契約においてLPガスの価格に法令上の規制がなく、LPガス販売事業者は自由にガス料金を設定することができることも併せて考慮すると、Xとしては、解除時点では消費設備に係る設置費用の全部を回収できていない契約者が一定数生ずるという事態が起きることを見越し、利益が確保できるように契約者全体のガス料金を適宜設定し、設置費用が未回収となったことの負担を他の契約者に転嫁することが可能になっていたといわざるを得ない。そうすると、上記事態が起きたとしても、Xに上記未回収分の損害が生じたとはいえないというべきである。
そして、他に、本件供給契約と同種の消費者契約の解除に伴いXに生ずべき平均的な損害に当たり得るものは見当たらない。
以上からすると、本件供給契約と同種の消費者契約の解除に伴いXに生ずべき平均的な損害は存しないというべきである。
したがって、本件条項は、その全部について消費者契約法9条1号により無効となるというべきである。