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弁護士の預り金口座に対する差押えに関する最高裁判決


預金債権の差押えに関して、弁護士の預り金口座を差押えられるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和8年1月20日判決

 弁護士が依頼者のお金を預かる預り金口座に対する差押えが認められるか?が問題になった事案です。

事案の概要

 Yは弁護士であり、その職務に関して預かり保管する金員(「預り金」)を管理するため、みずほ銀行において「預かり金口 弁護士 A」名義の普通預金口座の本件預り金口座を開設していた。

 Xは、Yに対して婚姻費用の分担金の支払を命ずる審判を債務名義とする強制執行として、Yがみずほ銀行に対して有する預金債権の差押えを2回にわたって申し立てた。そして、上記各申立てに基づき令和4年8月及び同年11月に債権差押命令が発せられ、本件預り金口座に係る本件預金債権のうち、第1審判決別紙債権目録記載1、2の「被差押金額」欄記載の部分が差し押さえられた。

 本件預金債権は、本件各差押えがされた時点において、その全部が、Yの依頼者からの預り金を原資とするものであった。また、Yは、上記各時点において、依頼者から弁護士報酬の振込みを受けるための預金口座を本件預り金口座とは別に開設するなどして、本件預金債権をそれ以外の自己の財産と分別して管理していた。

 Yは、依頼者からの預り金は、当然に信託財産に属する財産となるから、Yを受託者とし、本件預り金を信託財産に属すべきものと定めた信託契約が成立し、本件預り金を原資とする本件預金債権も信託財産に属する財産となることは、本件信託契約の具体的内容について主張するまでもなく明らかである上、その具体的内容を主張することは、Yが弁護士として職務上知り得た秘密を保持する義を負っていることとの関係でも問題がある旨主張し、Xに対し、信託法23条5項の規定による異議に係る訴えを提起し、本件各差押部分に対する前記各強制執行の不許を求めた。

 それに対し、Xは、本件信託契約の具体的内容についての主張がなく、本件信託契約が成立していたとはいえない上、仮に本件信託契約が成立していたとしても、本件各差押えがされてから原審の口頭弁論が終結されるまでの間に、Yが日本弁護士連合会から業務停止2月とする懲戒処分を受け、本件信託契約が終了したことなどにより、本件預金債権について、Yの固有財産に属する財産となっている旨主張した。

原審の判断

 原審は、Xの差押えを認めませんでした。

 依頼者からの預り金が弁護士の固有財産から分別して管理されている限り、当該預り金を信託財産に属すべきものと定めた信託契約が成立していたということができる。そして、本件各差押えがされた時点において、本件預り金を原資とする本件預金債権が、Yの固有財産と分別して管理されていたことからすると、その具体的内容の主張がなくても、本件信託契約が成立していたということができる。

 本件各差押部分が信託財産に属する財産であるか否かは、本件各差押えがされた時点を基準として判断されるべきである。

最高裁の判断

 最高裁は、本件信託契約に関し、信託の目的についての合意が成立したことの主張があるとはいえないと判断しました。また、差押部分が信託財産に属する財産かどうかの判断時期を差押時ではなく、異議訴訟の事実審の口頭弁論終結時と判断しました。

 信託契約は、特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約であり(信託法3条1号)、当該目的、すなわち、信託の目的についての合意が成立したことを成立要件とするものである。そして、民事訴訟において、ある財産が信託財産に属するものであるか否かが問題となり、当該財産を信託財産に属すべきものと定めた信託契約に関し、信託の目的についての合意が成立したか否かが当事者間で争われている場合、上記合意の成立についての主張があるといえるためには、当事者双方が主張立証を尽くせるように攻撃防御の目標が適切に設定されているかなどの観点から見て、上記合意の成立が事案に応じて具体的に主張されている必要があるというべきである。

 本件において、Xは、本件信託契約の成立を争い、信託の目的をはじめとする本件信託契約の具体的内容をYにおいて明らかにすることを求めている。他方で、Yは、これを明らかにする必要はないとして、本件預り金を預かり保管した目的に関し、具体的な主張を明示的にしていない。また、Yは、本件預り金に関する帳簿や本件預り金口座に係る預金通帳の一部を証拠として提出しているものの、当該帳簿等をみても本件預り金を預かり保管した目的を把握することができない。そして、このようなYによる主張立証活動のため、Xは、信託の目的についての合意が成立したことなどに関し、主張立証を尽くすことが著しく困難な状態に陥っている。そうすると、Yが弁護士として秘密保持義務を負っていることを考慮しても、本件事案の下において、上記合意の成立が具体的に主張されているとはいえないというべきである。

 したがって、Yがその成立をいう本件信託契約に関し、信託の目的についての合意が成立したことの主張があるとはいえない。

 以上と異なる見解の下に、本件信託契約が成立していたということができるとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法がある。

 受託者の固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を請求債権として、信託財産に属する預金債権に対する差押えがされたのに対し、当該預金債権の債権者が、当該預金債権が信託財産に属する財産であって自らが受託者であると主張し、信託法23条5項の規定による異議に係る訴えを提起した場合において、当該差押えの後に、当該預金債権が当該受託者の固有財産に属するに至ったときは、当該異議の主張は認められなくなると解すべきであって、当該差押えがされた時点において当該預金債権が信託財産に属する財産であったことにより当該異議の主張が認められることにはならない。そして、上記の場合において、上記預金債権が信託財産に属する財産であるか否かの判断の基準時を通常の民事訴訟と別異に解すべきことの根拠となるべき規定は見当たらない。

 したがって、上記の場合において、上記預金債権が信託財産に属する財産であるか否かは、事実審の口頭弁論終結時を基準として判断されるべきものである。

 以上と異なる見解の下に、本件各差押部分が信託財産に属する財産であるか否かは、本件各差押えがされた時点を基準としてこれが判断されるべきであるとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法がある。


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