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物上代位権による賃料債権の差押と相殺の優劣を判断した最高裁判決


物上代位権による賃料債権の差押と相殺の優劣を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和5年11月27日判決

 建物の根抵当権者であり、物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえたXが、賃借人であるYに対し、当該賃料債権のうち2,790万円の支払を求めた事案です。

 賃借人が、抵当権設定登記後、差押前に取得した債権と将来の賃料債権とを都度相殺させる相殺合意と物上保証人の賃料債権の差押の優劣が問題になりました。

相殺と差押

 本件は、相殺と差押の優劣が問題になった事案です。相殺と差押の優劣について、民法は、相殺を広く認めています。

問題

 差押債権者Cが、Aの第三債務者Bに対する債権を差押えた場合、BがAに対する債権(自働債権)による相殺が認められるか?

 上記の問題は、BがAに対する債権をいつ取得したかによって、以下のように、整理できます。

自働債権を差押前に取得した場合

 Bは、差押前に取得した債権による相殺をCに対抗できます(民法511条1項)。

自働債権を差押前に取得した場合

 Bは、差押後に取得した債権による相殺をCに対抗することはできません(511条1項)。

差押前の原因に基づいて生じた債権

 Bの自働債権が差押後に取得したものであっても、差押前の原因に基づいて発生した債権の場合は、相殺をCに対抗できます(511条2項本文)。

 ただし、Bが取得した差押前の原因に基づく債権が、他人から取得したものである場合は、相殺をCに対抗できません(511条2項但書)。

物上代位と相殺

 抵当権者が物上代位権を行使し、抵当不動産の賃料債権を差押えた場合、賃借人は、抵当権設定登記後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする相殺を物上保証人に対抗できません(最高裁平成13年3月13日判決)。

事案の概要

 本件賃貸人は、平成29年1月、Yとの間で、本件賃貸人が所有する本件建物を次の約定でYに賃貸する本件賃貸借契約を締結し、同年10月1日、本件建物をYに引き渡した。

 (1) 期間:平成29年10月1日~平成39年(令和9年)9月30日

 (2) 賃料:月額198万円(引渡日から2か月間は月額99万円)毎月末日までに翌月分を支払う。

 Yは、平成29年9月、本件賃貸人に対し、弁済期を平成30年4月30日、無利息、遅延損害金を年2割として990万円を貸し付けた(本件Y債権1)。

 本件賃貸人は、平成29年10月26日、Xのために、本件建物について極度額を4億7,400万円とする根抵当権を設定し、その旨の登記をした。

 A社は、平成29年11月、Yから弁済期を平成30年4月30日として3,000万円を無利息で借り受け、また、Yとの間で、Yに対する建築請負工事に係る債務1,000万円について、弁済期を同日とすることを約した。

 本件賃貸人は、平成29年11月、Yに対し、A社の上記各債務につき書面により連帯保証をした(本件Y債権2)。

 Yは、平成30年4月30日、本件各Y債権について、本件賃貸人から10万円の弁済を受け、本件賃貸人との間で残債権合計4,980万円の弁済期を平成31年1月15日に変更する旨合意した。

 Yは、平成31年1月15日、本件賃貸人との間で、本件賃貸借契約における同年4月分から平成32年(令和2年)1月分までの賃料の全額1,980万円及び同年2月分から平成34年(令和4年)2月分までの賃料のうち3,000万円(各月120万円)の合計4,980万円の債務について、期限の利益を放棄した上で、この債務に係る本件賃料債権を本件各Y債権と対当額で相殺する旨の合意をした。

 Xは、令和元年8月7日、大阪地方裁判所に対し、本件根抵当権に基づく物上代位権の行使として、本件賃貸借契約に係る賃料債権のうち、差押命令の送達時に支払期にある分以降4,000万円に満つるまでの部分を差押債権とする差押命令の申立てをした。上記申立てに基づき、同月9日、差押命令が発せられ、同月14日、Yに送達され、同年12月9日、本件賃貸人に送達された。

 Yは、令和3年5月19日までに、Xに対し、本件被差押債権の弁済として、令和2年2月分から令和3年4月分までの各月分につきそれぞれ78万円(賃料月額198万円から本件相殺合意の対象とされた120万円分を控除したもの)及び同年5月分につき40万円の合計1,210万円を支払った。

 Xは、本件差押命令により、本件賃料債権のうち、本件差押命令がYに送達された後の期間に対応する令和元年9月分から令和3年4月分までの3,960万円及び同年5月分のうち40万円の合計4,000万円を差し押さえたと主張して、これから上記支払分を控除した部分(本件将来賃料債権)についての支払を求めている。

原審の判断

 原審は、相殺が優先すると判断しました。

 抵当不動産の賃借人が、抵当権者による物上代位権の行使としての差押えがされる前に、賃貸人に対する債権を自働債権とし、弁済期未到来の賃料債務について期限の利益を放棄して同債務に係る債権を受働債権とする相殺の意思表示をした場合には、相殺の効力を否定すべき理由はなく、その後に抵当権者が当該債権を差し押さえたとしても、差押えの効力が生ずる余地はない。このことは、合意による相殺をした場合であっても同様であって、Yは、Xに対し、本件相殺合意の効力を対抗することができる。

最高裁の判断

 最高裁は、物上代位権による賃料債権の差押が優先すると判断しました。

 抵当不動産の賃借人は、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをする前においては、原則として、賃貸人に対する債権を自働債権とし、賃料債権を受働債権とする相殺をもって抵当権者に対抗することができる。もっとも、物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記によって公示されているとみることができることからすれば、物上代位権の行使として賃料債権の差押えがされた後においては、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権(登記後取得債権)を上記差押えがされた後の期間に対応する賃料債権(将来賃料債権)と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるということはできず、賃借人は、登記後取得債権を自働債権とし、将来賃料債権を受働債権とする相殺をもって、抵当権者に対抗することはできないというべきである。このことは、賃借人が、賃貸人との間で、賃借人が登記後取得債権と将来賃料債権とを相殺適状になる都度対当額で相殺する旨をあらかじめ合意していた場合についても、同様である。

 賃借人が、上記差押えがされる前に、賃貸人との間で、登記後取得債権と将来賃料債権とを直ちに対当額で相殺する旨の合意をした場合であっても、物上代位により抵当権の効力が将来賃料債権に及ぶことが抵当権設定登記によって公示されており、これを登記後取得債権と相殺することに対する賃借人の期待を抵当権の効力に優先させて保護すべきといえないことは、上記にみたところと異なるものではない。そうすると、上記合意は、将来賃料債権について対象債権として相殺することができる状態を作出した上でこれを上記差押え前に相殺することとしたものにすぎないというべきであって、その効力を抵当権の効力に優先させることは、抵当権者の利益を不当に害するものであり、相当でないというべきである。

 したがって、抵当不動産の賃借人は、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前に、賃貸人との間で、登記後取得債権と将来賃料債権とを直ちに対当額で相殺する旨の合意をしたとしても、当該合意の効力を抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である。

 本件相殺合意の効力がYに対する本件差押命令の送達前に生じたか否かにかかわらず、本件相殺合意により本件将来賃料債権と対当額で消滅することとなる対象債権が本件根抵当権の設定登記の後に取得された本件Y債権2であるときは、Yは、本件相殺合意の効力をXに対抗することはできない。

 平成30年4月30日に弁済された10万円及び本件賃料債権のうち本件差押命令の送達前の期間に対応する賃料債権990万円(平成31年4月分から令和元年8月分までの賃料債権)は、まず本件Y債権1に充当されることになり、本件Y債権1(990万円)はこれによりその全部が消滅しているから、本件相殺合意の効力により本件将来賃料債権と対当額で消滅することとなる対象債権は本件Y債権2のみである。そうすると、Yは、物上代位権を行使して本件将来賃料債権を差し押さえた根抵当権者であるXに対し、本件相殺合意の効力を対抗することはできない。


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