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LPガスの配管設備が建物に付合すると判断した最高裁判決


LPガスの配管設備が建物に付合するか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和7年12月23日判決

 LPガスの配管設備の所有権の帰属が問題になりました。消費者は、LPガスの配管設備が建物に付合し消費者に所有権があると主張しました。

付合

 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得します(民法242条本文)。

 付合の典型は、建物を増改築した場合です。建物の増改築部分は、建物に付合します。つまり、建物の所有者が増改築部分の所有権を取得します。

 ただし、付合する物の所有権を留保する権利を有している場合は、付合しません(民法242条但書)。たとえば、地上権や賃借権です。所有権を留保する旨の当事者間の合意でも構いません。

事案の概要

 Xは、液化石油ガス(LPガス)の供給等を業とする株式会社である。

 Xは、A社が販売する戸建て住にLPガスの消費設備に係る配管及びガス栓等を設置した。

 本件建物へのLPガスの供給は、本件建物の外部に設置されている貯蔵設備からガスメーターまでの供給設備及び本件配管によって行われている。本件配管は、ガスメーターに接続され、本件建物の外壁を貫通して本件建物の内部に引き込まれていて外壁に固定されており、1階の床下において、システムキッチンのガスコンロに向かうものと本件建物の外部に設置されている給湯器に向かうものとに分岐している。前者は、本件建物の1階の床下断熱材及び床材を貫通し、システムキッチンの収納ボックスに開けられた穴から引き込まれてガスコンロに接続されており、後者は、本件建物の外壁を貫通して外部へと引き出され、コーキング材で外壁に固定された上で給湯器に接続されている。本件配管を本件建物から撤去するためには上記の断熱材や収納ボックス等を取り壊す必要がある。

 Yは、平成29年7月、A社から本件建物を購入し、同年8月にその引渡しを受けた。

 Yは、平成29年9月、Xとの間で、本件建物に係るLPガスの供給契約を締結するとともに、「液化石油ガス供給・消費設備の売買予約と貸与契約書」と題する契約書を用いて、次のような内容の契約を締結し、本件建物へのLPガスの供給を受けるようになった。

 ①YとXは、本件配管の所有権がXにあることを確認した上、本件配管について売買予約契約を締結する。

 ②Xは、Yが本件供給契約を解除したときは、上記売買予約契約の予約完結権を行使することができる。

 ③本件予約完結権は、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律14条1項所定の書面がYに交付された日の翌日から15年間存続する。

 ④本件予約完結権の行使により成立する売買契約における本件配管の代金額は、以下の算定式により得られる本件配管の残存価値相当額とする(「本件条項」)。

(算定式)

 21万円-(21万円×0.9×0.066×上記書面の交付日の翌日から本件予約完結権の行使により本件売買契約が成立した日までの経過月数÷12)

 Yは、令和2年9月、Xに対し、本件供給契約を解除する旨の意思表示をした。Xは、その後、Yに対し、本件予約完結権を行使する旨の意思表示をした。

 Xは、①主位的請求として、Yは、Xに対して本件売買契約に基づく売買代金債務を負っており、B社は、YのXに対する上記債務を併存的に引き受けたなどと主張し、Yに対し、売買代金等の支払を求めるとともに、②予備的請求として、消費者契約法9条1号(令和4年法律第59号による改正前のもの)により本件条項が無効となる場合には、本件売買契約は成立しないなどと主張し、Yらに対し、本件配管の所有権に基づく本件配管の引渡し等を求めた。

 Yらは、本件配管は、本件建物に付合したものであって、民法242条ただし書の適用はなく、Yがその所有権を有していたものであるから、本件契約の法的性質を売買予約契約と解することはできず、本件売買契約は成立しない上、本件条項は、消費者契約法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に当たり、同号により無効になるなどと主張してこれを争っている。

原審の判断

 原審は、本件契約を売買予約契約と解して本件売買契約の成立を肯定しながら、本件配管の代金額を定めた本件条項が、違約金等条項に当たり、その全部が無効だと判断しました。

最高裁の判断

 最高裁は、本件配管は建物に付合しYに所有権があると判断しました。

 本件契約が売買予約契約であるとすると、本件条項は、本件配管の所有権をXからYに移転することの対価である代金額について定めたもので、違約金等条項に当たらないと解する余地がある。

 しかしながら、原審は、本件配管は本件建物に付合したものではないとして、本件契約を売買予約契約であると解したものであるが、本件配管について、本件建物に付合したものであり、民法242条ただし書の適用もないのであれば、本件契約が締結される以前からYがその所有権を有していたこととなる。このような場合、XからYへの本件配管の売買予約について定めた本件契約書をその文言どおりに理解することは相当ではなく、本件契約を売買予約契約と解することはできないというべきである。

 前記事実関係からすると、本件配管を撤去するためには本件建物及びその住宅設備を相当程度毀損する必要があり、その撤去や本件建物等の復旧には相応の手間や費用を要することが見込まれる。また、本件配管は、本件建物の構造に合わせて設置されているもので、本件建物と一体となって利用されることではじめてその経済的効用を発揮するものである上、撤去後の本件配管の経済的価値が乏しいものであるとうかがわれることからすると、相応の費用等をかけて本件配管を撤去する意義は見いだし難い。これに加え、戸建て住宅に設置されている状態のLPガスの消費設備に係る配管が、当該住宅と別個独立に公の市場において取引されるものであるとはうかがわれないことも考え併せると、本件配管について、本件建物とは別個に所有権の客体となるものと解すべき必然性は乏しいといわざるを得ない。

 以上の事情に照らせば、本件配管については、本件建物に付合したものと解される。また、民法242条ただし書は、不動産に付合した物が、なお当該不動産とは別個の存在を有する場合にのみ適用されるものである、上記事情からすると、本件配管が本件建物と別個の存在を有するとはいえない。よって、本件配管について、民法242条ただし書の適用はないというべきである。

 以上からすると、Yは、本件契約締結以前から本件配管の所有権を有していたのであり、本件契約を本件契約書の文言どおりに売買予約契約と解することはできない。したがって、本件契約が売買予約契約であって本件売買契約が成立すること又はXが本件配管の所有権を有していることを前提とするXの主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がないこととなる。


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