訴訟代理人による訴訟行為の排除の可否を判断した最高裁決定を紹介します。
最高裁令和4年6月27日決定
本件は、取締役の任務懈怠に基づく会社に対する損害賠償請求訴訟(会社法423条1項)です。会社側の訴訟代理人が、会社の第三者委員会の委員だった弁護士でした。
弁護士法25条は、弁護士が事件を受任できない事件を規定しています。訴訟代理人である弁護士が、弁護士法25条に違反している場合、訴訟の相手方当事者は、異議を述べ、裁判所に対し、当該弁護士の訴訟行為の排除を求めることができます(最高裁昭和38年10月30日判決)。
会社側の訴訟代理人が、会社の第三者委員会の委員だったことが弁護士法25条2条、4号の類推適用により、当該弁護士の訴訟行為を排除できるか?が問題になりました。
(職務を行い得ない事件)
第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
四 公務員として職務上取り扱つた事件
五 仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件
六 弁護士法人(第三十条の二第一項に規定する弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人(外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(昭和六十一年法律第六十六号)第二条第三号の二に規定する外国法事務弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの
七 弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの
八 弁護士法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方から受任している事件
九 弁護士法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件
事案の概要
令和元年9月、抗告人の取締役等が福井県における原子力発電事業に関して地元関係者から多額の金品を受領していた問題についての報道がされた。
抗告人は、令和2年3月、金品受領問題等に関し、日本弁護士連合会のガイドラインに準拠して設置した第三者委員会から再発防止策の提言等を受けた後、相手方らが会社法423条1項により抗告人に対する損害賠償責任を負うか否か等について調査、検討を行うため、O弁護士らを含む4名の弁護士に委員を委嘱して、取締役責任調査委員会を設置した。抗告人は、本件責任調査委員会について、独立性を確保した利害関係のない立場にある社外の弁護士から成る委員会である旨の公表をした。
本件責任調査委員会は、相手方らに対し、文書により、金品受領問題等に関する事情聴取に協力するよう要請した。上記文書には、その事情聴取の結果は、抗告人の相手方らに対する責任追及訴訟において証拠として用いられる可能性がある旨の記載がされていた。
本件責任調査委員会は、金品受領問題等に関し、相手方らに対する事情聴取を行った上で、令和2年6月、抗告人に対し、相手方らに損害賠償責任が認められるなどと記載した調査報告書を提出した。
抗告人は、令和2年6月、O弁護士らを含む複数の弁護士を訴訟代理人として、本件訴訟を大阪地方裁判所に提起した。本件訴訟は、抗告人が、金品受領問題等に関し、相手方らが取締役としての任務を怠ったことにより損害が生じたと主張して、会社法423条1項に基づき、相手方らに対し、損害賠償を求めるものである。
相手方らは、令和2年7月、大阪地方裁判所に対し、本件訴訟においてO弁護士らが抗告人の訴訟代理人として訴訟行為をすることは、弁護士法25条2号、4号等の各趣旨に反すると主張して、O弁護士らの各訴訟行為の排除を求める申立てをした。
原審の判断
原審は、以下のように判断し、訴訟行為の排除を認めました。
相手方らは、金品受領問題等について、本件責任調査委員会の委員であるO弁護士らの独立かつ中立・公正な立場を信頼し、その事情聴取に応じたのであり、その回答はO弁護士らに対して上記立場からの法律的な解決を求めるためにされたに等しく、また、O弁護士らの上記立場は裁判官と変わるところがないから、本件訴訟においてO弁護士らが抗告人の訴訟代理人として行う各訴訟行為は弁護士法25条2号及び4号の各趣旨に反するとして、上記各号の類推適用により、上記各訴訟行為を排除した。
最高裁の判断
最高裁は、以下のとおり、訴訟行為の排除を認めませんでした。
本件責任調査委員会は、金品受領問題等に関し、抗告人が相手方らの会社法423条1項に基づく損害賠償責任の有無等を調査、検討するために設置したものであり、その委員は、抗告人から委嘱を受けて、上記の調査等のために職務を行うものである。相手方らにおいても、本件責任調査委員会の名称及び設置目的並びに本件記載に照らし、本件責任調査委員会が、抗告人のために上記の調査等を行っており、事情聴取の結果が、抗告人の相手方らに対する損害賠償請求訴訟において証拠として用いられる可能性があることを当然認識していたというべきである。そうすると、相手方らが本件責任調査委員会の事情聴取に応じてした回答が、その委員であるO弁護士らに対して金品受領問題等について法律的な解決を求めるためにされたに等しいということはできない。また、本件責任調査委員会の設置目的やその委員の職務の内容等に照らし、O弁護士らが裁判官と変わらない立場にあったということもできない。これらのことは、抗告人が本件公表をしていたからといって、変わるものではない。そもそも、弁護士に委任をして訴訟を追行する当事者の利益や訴訟手続の安定等を考慮すると、弁護士法25条に違反する弁護士の訴訟行為を排除する判断において、同条の規定についてみだりに拡張又は類推して解釈すべきではない。
以上によれば、本件訴訟においてO弁護士らが抗告人の訴訟代理人として行う各訴訟行為について、弁護士法25条2号及び4号の類推適用があるとして、これを排除することはできないと解するのが相当である。