勾留中の被疑者に対する接見等禁止に関する最高裁決定を紹介します。
最高裁令和7年8月14日決定
勾留中の被疑者に対する接見等禁止を認めた原々裁判を妥当と判断した原審を違法と判断した最高裁決定です。
接見等禁止
勾留中の被疑者は、家族や友人等の弁護人以外の人とも法令の範囲内で面会したり、書類や物の受渡し(接見等)ができます(刑訴法207条1項、80条)。
被疑者が逃亡又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官は、検察官の請求又は職権により、弁護人以外の人との接見等を禁止することができます(刑訴法207条1項、81条)。
勾留中の被疑者は、すでに、逃亡又は罪証隠滅の相当理由があると判断されています。そのため、勾留によっては、防止できないほど高度な逃亡又は罪証隠滅の相当理由がある場合に限って、弁護人以外の人との接見等を禁止できると解されています。
事案の概要
本件被疑事実の要旨は、「被疑者は、正当な理由がないのに、令和7年5月9日午後7時28分頃から同日午後7時33分頃までの間、ひそかに、愛媛県西予市内のアパートに居住する女性に対し、同アパートの浴室窓から携帯電話機を浴室内に向けて差し入れ、同人の性的な部位等を撮影しようとしたが、同人に気付かれたためその目的を遂げなかった」というものである。
被疑者は、令和7年8月1日に勾留され、原々審は、同日、検察官の請求により、被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者等以外の者との接見等を禁止する旨の裁判をした。これに対し、弁護人が本件準抗告を申し立てた。
原審の判断
原審は、本件の接見禁止は違法ではないと判断しました。
本件被疑事実の性質、内容、被疑者の供述状況及び供述内容からすれば、被疑者が、罪体や重要な情状事実について、関係者と通謀するなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり、これを防止するためには、刑訴法39条1項に規定する者以外の者との接見等を禁止する必要があると認められるから、被疑者の母を含めて接見等を禁止した原々裁判の判断は正当である。
最高裁の判断
最高裁は、本件の接見禁止を認めた原審の判断は違法だと判断し、原々審に差戻しました。
本件は、事案の性質、内容をみる限り、被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案であるから、原審は、原々裁判が不合理でないかどうかを審査するに当たり、被疑者が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情が一件記録上認められるかどうかを調査し、原々裁判を是認する場合には、そのような事情があることを指摘する必要があったというべきである。
そのような事情があることを何ら指摘することなく原々裁判を是認した原決定には、刑訴法81条、426条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反すると認められる。