債務整理のえそらごとで、「支払督促と消滅時効に関する最高裁判決」を書きました。そこで、もう少し詳しく支払督促について説明します。
支払督促とは?
金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について、債権者の申立てのみに基づき、金銭給付の債務名義を取得することができる手続きです(民訴法382条)。
支払督促の対象
支払督促の対象は、金銭請求に限られます。ただし、有価証券の一定数量の給付請求は対象となります。これは、公正証書に基づく強制執行の対象(民事執行法22条5号)と同じです。
したがって、不動産の明渡請求などは支払督促の対象にはなりません。また、金銭請求であっても、即時に強制執行できる請求に限ります。たとえば、将来の請求や期限付きの請求は、対象外です。
支払督促の管轄
債務者の普通裁判籍を管轄する簡易裁判所です(民訴法383条1項)。普通裁判籍は、通常は、債務者の住所地です(民訴法4条1項・2項)。
支払督促は二段階の手続き
支払督促の手続きは、①支払督促の発付と②仮執行宣言付支払督促の二段階の手続きになっています。
①支払督促の発付
適法かつ理由のある支払督促の申立てがあれば、裁判所書記官は支払督促を発付します(民訴法386条1項)。債務者の主張を聴くことはなく、債権者の申立てのみに基づき支払督促は、発付されます。
支払督促は、債務者に送達されると効力が生じます(民訴法388条2項)。
このように、支払督促は、形式的な審査のみで発付されます。たとえば、すでに、貸金返還請求権について、消滅時効が成立しているような場合でも支払督促が発付されるので、債務者は注意が必要です。
②仮執行宣言の申立て
支払督促が債務者に送達された後、2週間以内に債務者から督促異議(後述します。)の申立てがなければ、債権者は仮執行宣言の申立てをすることができます(民訴法391条1項本文)。
債権者の申立てにより、裁判所書記官は仮執行宣言を行います。債務者の主張を聴くことはありません。仮執行宣言付支払督促は、債務者へ送達時に執行力が生じます。
債務者への送達後は、債権者は、仮執行宣言付支払督促に基づいて強制執行をすることができます(民事執行法22条4号)。なお、債権者が仮執行宣言の申立てができる時から30日以内に申立てをしない場合、支払督促は効力を失います(民訴法392条)。
督促異議
支払督促又は仮執行宣言付支払督促について不服のある債務者は異議を申立てることができます(民訴法386条2項)。これを督促異議といいます。督促異議がなされると、通常の訴訟手続きに移行します(民訴法395条)。
支払督促に仮執行宣言が付される前に、督促異議があった場合、支払督促は効力を失います(民訴法390条)。したがって、督促異議後に債権者は仮執行宣言の申立てはできません。
仮執行宣言が付された後に督促異議があった場合も、訴訟に移行します(民訴法395条)。しかし、仮執行宣言付支払督促は効力を失いません。債権者は訴訟中であっても、強制執行をすることができます。強制執行を停止させるには、別途、強制執行停止・取消し申立てをする必要があります(民訴法403条1項3号・4号)。
なお、仮執行宣言付支払督促の送達後2週間を経過すると、督促異議の申立てをすることはできません(民訴法393条)。
支払督促の効力
仮執行宣言付支払督促に対して督促異議がなければ、支払督促は確定判決と同一の効力を持つことになります(民訴法396条)。支払督促の対象となる債権が生じ債権で消滅時効の期間が5年であっても、支払督促の確定後は、消滅時効期間は10年になります(民法169条1項)。
債権者から見た支払督促
債務者が支払督促に対して異議を述べない場合は,簡易かつ迅速に債務名義を取得することができます。しかし,前述のとおり,債務者が督促異議を述べると訴訟に移行します。
そうなると,支払督促手続きを経た分,当初から訴訟提起した場合と比べて時間をロスしてしまいます。また,管轄も金銭請求の場合,原告の住所地を管轄する裁判所に訴訟提起するのが通常ですが(民訴法5条1号),支払督促を経た場合は債務者の住所地を管轄する裁判所になり,遠方の裁判所に訴訟が係属することがありえます。
債務者から見た支払督促
支払督促が送達されてから2週間以内に督促異議を述べなければ,債権者に仮執行宣言の申立てをされてしまします。仮執行付支払督促に対して督促異議を述べても効力を失わないので,最初の支払督促の段階で異議を述べておく必要があります。
すでに消滅時効期間が経過している貸金債権を譲受けたとして、貸金業者やサービサーが支払督促を申立てることもあります。2週間と時間があまりないので,早急に弁護士に相談するなどの対応を取ることをお勧めします。
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