債権執行の配当において、利息・遅延損害金をどのように扱うか?を判断した最高裁判決・決定を紹介します。
債権執行の実務上の取扱い
まず、債権執行に関する東京地裁の運用をおさらいしておきます。東京地裁では、債権差押命令申立において、請求債権を遅延損害金の起算日から差押命令申立日までの確定金額を記載することにしています。
その上で、従来の実務では、債権差押命令に示された後の利息・遅延損害金は、債権執行の配当時に、計上しないという取扱いがなされていました。
しかし、下記の最高裁平成21年7月14日判決によって、東京地裁の運用が変わりました。元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とする債務名義を有する債権者の申立てによる債権差押命令に基づく配当手続において、配当期日までの遅延損害金の額を配当額の計算の基礎となる債権額に加えて計算された金額の配当を受けることができます。
ただし、配当額の計算の基礎となる債権額に、申立日の翌日以降の利息・遅延損害金を加えるだけで、配当の充当を受ける債権額は、申立てにおいて明示した債権とする運用です。
最高裁平成21年7月14日判決
従来の実務の取扱いが変更されるきっかけになった最高裁判決です。債権差押命令申立書に、債務名義に記載されている遅延損害金の起算日から差押命令申立日までの確定金額を記載し、申立てを行った債権者が、配当期日までの遅延損害金の額を配当額の計算の基礎とする債権額に加えて計算された金額の配当を受けることができるか?が争われました。
事案の概要
債権差押命令申立書には、実務の取扱いどおり、債務名義に記載されている遅延損害金の起算日から差押命令申立日までの確定金額を記載し、申立てを行った。その後、配当手続において、執行裁判所に提出した債権計算書において、配当期日までの遅延損害金の額を記載した。
最高裁の判断
債権差押命令申立書に、債務名義に記載されている遅延損害金の起算日から差押命令申立日までの確定金額を記載する実務の取扱いについては、法令上の根拠に基づくものではないが、請求債権額を確定することで、第三債務者自らが請求債権中の遅延損害金の金額を計算しなければ、差押債権者の取立てに応じるべき債権額が分からない事態を避けるための配慮として合理性を有すると判断しています。
そして、元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とする債務名義を有する債権者は、請求債権中の遅延損害金を元金の支払済みまでとする債権差押命令の発令を求めることができ、差押えが競合するなどして、配当手続が実施されるに至ったときは、計算書提出の有無を問わず、債務名義の金額に基づき、配当期日までの遅延損害金の額を配当額の計算の基礎となる債権額に加えて計算された金額の配当を受けることができると、判断しました。
その上で、従来の実務の取扱いに従って、債権差押命令申立書に、債務名義に記載されている遅延損害金の起算日から差押命令申立日までの確定金額を記載した債権者も、計算書で請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額として配当を受けることを求める特段の事情がない限り、配当手続において、債務名義の金額に基づく配当を求める意思を有するものとして取り扱われるべきで、計算書提出の有無を問わず、債務名義の金額に基づく配当を受けることができると判断しました。
最高裁平成29年10月10日決定
元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とする金銭債権を表示した債務名義による債権差押命令において、すでに発せられた債権差押命令に基づく差押債権の取立金を差押命令の申立書に請求債権として記載していなかった申立日の翌日以降の遅延損害金に充当することができるかが?争われました。
事案の概要
抗告人は、平成28年1月、相手方を債務者、荒川区を第三債務者とする債権差押命令申立てを東京地裁に行った。債務名義は、元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とするものであった。東京地裁の取扱いに応じて、抗告人は、請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額として申立てを行った。抗告人は、荒川区から4回にわたって、請求債権相当額の取立金の支払を受けた。
抗告人は、平成28年4月、相手方を債務者、荒川区を第三債務者とする債権差押命令申立てを行った。請求債権を債務名義に表示された債権のうち、取立金が、前件申立日の翌日から各支払日までの遅延損害金に充当されるものとして計算した残元金、最終支払日の翌日以降の遅延損害金を内容とするものであった。
原審の判断
原審は,前件差押命令申立書に請求債権として元金,遅延損害金を申立日までの確定金額と記載した以上,申立日の翌日以降の遅延損害金は取立金の充当対象にならないと判断しました。
最高裁の判断
最高裁は,原審の判断を覆し,申立日の翌日以降の遅延損害金も取立金の充当対象となると判断しました。
東京地裁の取扱いは,請求債権額を確定することで,第三債務者自らが請求債権中の遅延損害金の金額を計算しなければ,差押債権者の取立てに応じるべき債権額が分からない事態を避けるための配慮として合理性を有する。元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とする債務名義を有する債権者は,請求債権中の遅延損害金を元金の支払済みまでとする債権差押命令の発令を求めることができるので,実務の取扱いに従って債権差押命令申立を行った債権者は,第三債務者の負担について上記の配慮をする限度で,請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額とすることを受け入れた。
そうすると,差押債権の取立に関する金員の充当の場面では,もはや第三債務者に配慮する必要はなく,取立金を支払済みまでの遅延損害金に充当されることについて合理的期待を有していると解するのが相当であり,債権者が実務の取扱いに従って,債権差押命令申立てを行ったからといって,直ちに申立日の翌日以降の遅延損害金を充当の対象から除外すべき理由はない。
したがって,実務の取扱いに従って,債権差押命令申立書に,債務名義に記載されている遅延損害金の起算日から差押命令申立日までの確定金額を記載した債権者が,差押債権の取立てとして第三債務者から金員の支払を受けた場合,申立日の翌日以降の遅延損害金も充当の対象となる。