歩合給の残業代請求に関して、最高裁判決が出ました。その概略を紹介します。
最高裁平成29年2月28日判決
歩合給の計算に当たって、残業手当に相当する金額を控除する賃金規程の有効性が争われました(固定残業代の話し、歩合給の残業代参照)。
事案の概要
労働者はタクシーの運転手です。タクシー会社の賃金規程では、残業手当と歩合給を次のように計算すると規定しています。
まず、割増賃金と歩合給を求めるための対象額Aを次の計算式で算出する。
(所定内揚高-所定内基礎控除額)×0.53+(公用揚高-公出基礎控除額)×0.62
深夜手当は、①と②の合計額とする。
①{(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×0.25×深夜労働時間
②(対象額A÷総労働時間)×0.25×深夜労働時間
残業手当は、(1)と(2)の合計額とする。
(1){(基本給+服務手当)÷(出勤日数×15.5時間)}×1.25×残業時間
(2)(対象額A÷総労働時間)×0.25×残業時間
休日労働についての手当である公出手当についても、深夜手当と同様に計算することとされています(割増率は当然、異なる)。
歩合給は次のように計算する。歩合給は、従前支給されていた賞与の代わりに支給される手当です。
対象額A-{割増金(深夜・残業・公出手当の合計)+交通費}
原審の判断
原審は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから割増金を控除する部分は無効で、割増金を除外せずに歩合給を計算すべきと判断しました。
原審が無効だと判断したのは、①揚高が同じである限り、時間外労働をしても、しなくても賃金が同じになり、労基法37条(割増賃金の支払義務)の潜脱になる、②法定外休日と法定休日、法内時間外労働と法定外時間外労働を区別でせずに一律に控除の対象としていることが理由です。
最高裁の判断
労基法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどう定めるかは規定していない。売上高などの一定割合に相当する金額から割増賃金に相当する金額を控除したとしても、労基法の定める割増賃金の支払いと言えるかどうかは別として、当然に無効になることはないと判断しました。
本件の賃金規程では、①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを区別することができるかどうか、②区別できたとして、労基法の割増賃金を下回らないかどうかを判断する必要があると判断しています。
そのため、これらについて審理判断をしていないということで、原審に差戻しを命じました。今後、原審である東京高裁で、これらの区別ができるのかどうかが争われることになります。
差戻審最高裁判決
差戻審の最高裁判決(令和2年3月30日判決)は、「割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから、本件各賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできない」と判断し、タクシー運転手の未払賃金の請求を認めました。