同一労働同一賃金の概要と会社の対応の基本を説明します。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金は、長時間労働の是正とともに、働き方改革の柱と位置付けられています。正社員と非正規労働者間の不合理な待遇格差を解消することで、どのような雇用形態であっても、納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できることが期待されています。
一連の法改正により、パートタイム労働法に、短時間労働者だけでなく、有期雇用労働者を組み込み、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム有期法)と改められました。
差別的な取扱いの禁止(パート有期法9条)
パート有期法9条は、正社員と同視すべき非正規労働者については、非正規労働者であることを理由に、基本給・賞与・その他の待遇について差別的な取扱いを禁止しています。
対象となる待遇
差別的な取扱いの対象は、基本給・賞与だけでなく、各種手当や教育訓練・福利厚生・休暇・安全衛生・災害補償・解雇などすべての待遇が対象です。
正社員と同視すべき非正規労働者
正社員(条文上は通常の労働者)と同視すべき非正規労働者(条文上は短時間・有期雇用労働者)とは、①正社員と責任を含む職務内容が同じで、②雇用関係が終了するまでの全期間において職務内容・人事異動等の有無や範囲が正社員と同じと見込まれる非正規労働者のことです。
つまり、現時点で職務内容が同じだけではなく、人事異動の有無や範囲といった長期的な人材活用の仕組み・運用が同一であることも必要になります。
差別的な取扱い
禁止されるのは、非正規労働者であることを理由とした差別的な取扱いです。正社員には提供している福利厚生を非正規労働者には提供しないことが典型です。また、一般に非正規労働者は勤続年数が短いことを理由に、正社員に支給している退職金を支給しないといった平均的な属性・特徴に基づく差別的取扱いも禁止されると解されています。
パート有期法9条違反の効果
パート有期法9条に違反する使用者の行為は、不法行為として損害賠償の対象になります(民法709条)。パート有期法9条は強行法規です。したがって、同条に違反する労働契約は無効となります。無効となった労働契約がどうなるのかは、後述するパート有期法8条と同様です。
不合理な待遇の相違の禁止(パート有期法8条)
法改正前は、労働契約法旧20条が、正社員と有期雇用労働者間の不合理な労働条件の相違を禁止していました。また、パートタイム労働法8条が、正社員とパートタイム労働者間の不合理な待遇の相違を禁止していました。
パートタイム・有期雇用労働法が制定され、労働契約法旧20条とパートタイム労働法8条を統合する形で、パート有期法8条において、正社員と非正規労働者間の不合理な待遇の相違が禁止されます。
主として、このパート有期法8条が、同一労働同一賃金の根拠となる規定です。同一労働同一賃金と言われますが、その対象は、賃金だけではないことがパート有期法8条から分かります。
なお、派遣労働者については、パート有期法8条に相当する規定が、労働者派遣法30条の3第1項で規定されています。
対象となる待遇
パート有期法8条の対象となる待遇とは、基本給や賞与のほか、各種手当・教育訓練・福利厚生・休暇・安全衛生・災害補償・解雇などすべての待遇が対象となります。
労働契約法旧20条は、労働条件の相違が不合理かどうかを問題にしていました。そのため、解雇や配転・懲戒処分といった人事上の個別的措置は、労働条件に当たらないという見解が主張されていました。
パート有期法8条は、労働契約の内容である労働条件だけでなく、雇用管理上の待遇一般を広く対象にすることを明記したので、解雇・配転・懲戒処分といった人事上の個別的措置も対象になります。
誰と誰を比較するのか?
待遇の相違について、誰と誰を比較するのか?が問題になります。ここで比較するのは、短時間・有期雇用労働者、つまり、いわゆる非正規労働者の待遇とその待遇に対応する通常の労働者、つまり、正社員とを比較します。
パート有期法8条は、待遇について、1つずつその不合理性を判断します。問題となる待遇ごとに、それに対応する正社員の待遇と比較することになります。つまり、労働者ごとに比較するのではなく、待遇ごとに比較をします。
したがって、待遇の相違が不合理だと主張する非正規労働者は、どの正社員と比較するのかを選択できると考えられます。
不合理な相違とは?
ハマキョウレックス事件最高裁判決は、労働契約法旧20条について、職務内容等の違いに応じた均衡の取れた処遇を求める規定だと判断しています。また、同判決は、手当の趣旨・性質など前提となる事情が異ならない場合、労働条件の相違を不合理とし、相違全体について損害賠償を認めました(無期労働契約と有期労働契約の労働条件の不合理な相違に関する最高裁判決参照)。
したがって、最高裁は、労働契約法旧20条について、①職務内容等の前提事情が同じ場合、均等待遇をすること、②前提事情が異なる場合、その違いに応じた待遇をすることが求められると判断していると解されます。
パート有期法8条においても、同一労働同一賃金ガイドラインの記載を踏まえると、同様に解されるのではないかと考えられます。
つまり、個々の待遇ごとに、①待遇の目的・性質にあたる事情が正社員と同様に当てはまる非正規労働者には同一の取扱いをしなければなりません。また、②その事情について、正社員との間に相違が認められる非正規労働者については、その相違に応じた取扱いをする必要があります。
不合理性の判断
パート有期法8条は,基本給,賞与その他の待遇のそれぞれについて,個別に,職務内容,職務内容・配置の変更範囲その他の事情のうち,当該待遇の性質・目的に照らして適切を認められるものを考慮して判断するという判断方法・基準を明確にしました。
それらは,使用者の主観的な認識や意図ではなく,それぞれの待遇の実態を踏まえて判断されることになると考えられます。
なお,同一労働同一賃金に関する最高裁判決は,労働契約法旧20条下の判断です。パート有期法8条の判断においても参考になりますが,そのまま妥当するのか?が今後,問題になるでしょう。
不合理な待遇の相違は無効
パート有期法8条は,強行法規です。したがって,正社員と非正規労働者間の待遇の相違が不合理な場合,パート有期法8条違反として無効となります。また,不法行為として損害賠償の対象になります(民法709条)。
無効となった労働契約の部分は,正社員に適用される就業規則等を非正規労働者に適用するなど,契約を補充的に解釈することによって,事案ごとに判断します。たとえば,①差額の賃金請求を労働契約上の権利として認めたり,②正社員の就業規則等がそのまま非正規労働者に適用される場合もあるでしょう。
パート有期法8条と9条の関係
一般には,パート有期法9条は均等待遇,パート有期法8条は均衡待遇について規定していると解されています。
均等待遇とは,前提が同じ条件であれば同じ待遇をしなければならないことを意味します。均衡待遇とは,前提が異なる場合は,違いに応じた待遇をしなければならないことを意味します。もっとも,労働契約法旧20条の解釈として,判例が均等待遇・均衡待遇を求めていると解されるので,パート有期法8条もそのように解釈できることは前述のとおりです。
条文の適用については,包括的に差別的な取扱いを禁止する9条が適用されるか?を検討し,9条の適用がない場合に,個別の待遇ごとに8条の不合理な相違に当たるか?を検討することになります。
実務的には,パート有期法9条が適用される場合は少ないと考えられ,パート有期法8条の解釈が中心になるでしょう。
使用者の説明義務
使用者は,非正規労働者から正社員との待遇の相違について,説明を求められた場合,待遇の相違の内容と理由等を説明する義務を負います(パート有期法14条2項)。
この義務は,正社員と非正規労働者間の均等・均衡な待遇の実現を図る目的で,労使間の情報の不均衡を解消し,労働者の訴訟提起を可能にするために設けられたものです。
したがって,正社員と非正規労働者間に待遇の相違がある場合,使用者は,相違のある待遇ごとに,その性質・目的に照らして,相違の理由を労働者が理解できるように説明することが求められます。説明は,文書ではなく,口頭でもかまいませんが,労働者が理解できるよう,適宜,資料を活用することが求められます。
使用者が説明した内容が,訴訟においても出発点になります。したがって,使用者は,いつ,非正規労働者から説明を求められてもいいように,きちんと準備しておく必要があります。
また,使用者が説明を拒否した事実は,待遇の相違の不合理性の判断において,使用者に不利な事情として考慮される可能性があります。
同一労働同一賃金に対する会社の対応
会社等の使用者は,同一労働同一賃金にどのように対応すればいいのでしょうか?
参考となるものとして,パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書や業界別不合理な待遇格差解消のための点検・検討マニュアル,同一労働同一賃金ガイドライがあります。点検・検討マニュアルには,ワークシートがあるので,ワークシートに記入しながら,確認していくことができます。
使用者としては,上記のワークシートなども活用しながら,以下のような作業をしていくことになるでしょう。
基本給,賞与,退職金,各種手当などの待遇を書き出す。
給与やボーナスなど,金銭で支給しているものだけでなく,病気休職,法定外の有給といったすべての待遇が同一労働同一賃金の対象になるので,すべての待遇をもれなく書き出します。
個々の待遇ごとに,性質・目的(何のために支給してるのか?)を確認
性質・目的は,使用者の主観的な意図や認識ではなく,それぞれの待遇の実態を踏まえて判断されます。主観的な意図や認識と実際の給付の実態等が合致しているのか?をこれを機に確認しておくといいでしょう。
個々の待遇ごとに,正社員と非正規労働者で違いがあるか?を確認
当然,待遇に相違がなければ,問題ありません。
待遇に相違がある場合,②の性質・目的に照らして,なぜ相違があるのか?を説明する
ここで,説明ができない待遇の相違は,まず間違いなく不合理な相違です。したがって,制度を変える必要があります。
制度変更
制度を変える際は,労使間できちんと話し合いをしましょう。労使間で話し合い,よりよい制度を作っていくことが重要です。