特許権の及ぶ範囲について判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁令和7年3月3日判決
Xが、Yに対し、Yの行為がXの有する特許権を侵害すると主張し、Yの行為の差止め及び損害賠償等を求める事案です。
争点
日本の領域外から領域内にインターネットを通じてファイルを送信することなどにより、日本の領域外に所在するサーバと領域内に所在する端末とを含むシステムを構築するYの行為が特許法2条3項1号にいう「生産」に当たり、日本の特許権を侵害するかが問題になりました。

同日に、特許法2条3項1号の電気通信回線を通じた提供」、101条1号の「譲渡等」に当たるか?を判断した最高裁判決が出てます。
事案の概要
Xは、発明の名称を「コメント配信システム」とする特許に係る特許権を有しており、当該特許の特許請求の範囲における請求項1及び2に記載された各発明は、システムの発明である。
本件各発明は、動画及び動画に対してユーザが書き込んだコメントを表示する端末装置と当該端末装置に当該動画や当該コメントに係る情報を送信するサーバとをネットワークを介して接続したシステムに関するものであって、動画上に表示されるコメント同士が重ならないように調整するなどの処理を行うものであり、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という効果を奏する。
Yは、米国ネバダ州法に基づいて設立された法人であり、インターネットを利用した動画配信サイトの運営等を業としている。
Yは、我が国に在住するユーザに向けて、インターネットを通じ、複数の動画共有サービスを提供している。本件各サービスは、動画の再生に併せてユーザによって書き込まれたコメントが表示されるものである。
Yは、本件各サービスを提供するため、米国内で、ウェブサーバ、コメント配信用サーバ及び動画配信用サーバを設置管理しているところ(ただし、一部のサービスに係る動画配信用サーバは、第三者が設置管理するものであり、我が国に所在する場合と所在しない場合があり得る。)、そのうちのウェブサーバから、インターネットを通じ、ユーザが使用する我が国所在の端末に対し、HTMLファイル及びプログラムを格納したファイル(JavaScriptファイルなど)を配信している。
本件配信は、ユーザが、我が国所在の端末を使用し、本件各サービスに係る動画を視聴するための各ウェブページにアクセスすると、前記プログラムを格納したファイル等を米国所在の前記ウェブサーバから送信し、当該端末にダウンロードさせるものである。
本件配信がされると、前記端末は、前記ファイルの記述に基づき自動的に(ただし、動画再生ボタンの押下を要する場合がある。)、インターネットを介して接続された前記動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバにそれぞれ動画及びコメントに係るデータファイルを要求し、これらのファイルを受信してコメント同士が重ならないように調整した上、動画にコメントを重ねて前記端末上で表示するなどの処理を行うことになり、前記端末と前記動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバとを含む本件各発明の技術的範囲に属するシステムが構築される。
最高裁の判断
最高裁は、特許法2条3項1号にいう「生産」に当たる、つまり、日本の特許権が及ぶと判断しました。
我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められるが、電気通信回線を通じた国境を越える情報の流通等が極めて容易となった現代において、サーバと端末とを含むシステムについて、当該システムを構築するための行為の一部が電気通信回線を通じて我が国の領域外からされ、また、当該システムの構成の一部であるサーバが我が国の領域外に所在する場合に、我が国の領域外の行為や構成を含むからといって、常に我が国の特許権の効力が及ばず、当該システムを構築するための行為が特許法2条3項1号にいう「生産」に当たらないとすれば、特許権者に業として特許発明の実施をする権利を専有させるなどし、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わない。そうすると、そのような場合であっても、システムを構築するための行為やそれによって構築されるシステムを全体としてみて、当該行為が実質的に我が国の領域内における「生産」に当たると評価されるときは、これに我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はないというべきである。
本件配信は、プログラムを格納したファイル等を我が国の領域外のウェブサーバから送信し、我が国の領域内の端末で受信させるものであって、外形的には、本件システムを構築するための行為の一部が我が国の領域外にあるといえるものであり、また、本件配信の結果として構築される本件システムの一部であるコメント配信用サーバは我が国の領域外に所在するものである。しかし、本件システムを構築するための行為及び本件システムを全体としてみると、本件配信による本件システムの構築は、我が国所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるため本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであり、その結果、本件システムにおいて、コメント同士が重ならないように調整するなどの処理がされることとなり、当該処理の結果が、本件システムを構成する我が国所在の端末上に表示されるものである。これらのことからすると、本件配信による本件システムの構築は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程としてされ、我が国所在の端末を含む本件システムを構成した上で、我が国所在の端末で本件各発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はないといえる。そして、Xが本件特許権を有することとの関係で、上記の態様によるものである本件配信やその結果として構築される本件システムが、Xに経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれない。そうすると、Yは、本件配信及びその結果としての本件システムの構築によって、実質的に我が国の領域内において、本件システムを生産していると評価するのが相当である。
以上によれば、本件配信による本件システムの構築は、特許法2条3項1号にいう「生産」に当たるというべきである。