残業代請求で争点になることが多い、固定残業代の問題を取上げます。
固定残業代とは
実際の時間外労働時間数・深夜労働・休日労働の有無のかかわらず、割増賃金の支払いに代えて、一定の賃金を支払うのが、固定残業代です。
固定残業代には、以下の2通りの制度があります。
固定残業代の制度
①基本給に組込まれて、支払われる
②基本給とは別に、何らかの手当として支払われる
労基法は、労基法所定の割増率以上の賃金を支払えといっているにすぎず、労基法の規制に違反しないのであれば、固定残業代は制度としては有効です。
最高裁昭和63年7月14日判決(小里機材事件)
基本給に組込むタイプに関する事案です。
①基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区別され、かつ、②労基法所定の計算方法による額がその額を上回る場合は、差額を支払うことが合意されている場合は、有効と判断しています。
最高裁平成6年6月13日判決(高知県観光事件)
歩合給に関する最高裁判決です。
最高裁は、通常の労働時間に当たる部分と時間外割増賃金に当たる部分を区別できない場合、歩合給の支給によって時間外割増賃金を支払ったとすることはできないと判断しています。
固定残業代が有効となるには
最高裁判決を踏まえて、固定残業代が残業代の支払いとして有効となるには、以下の3つの要件が必要と考えられています。
①対価要件
割増賃金の対価であるという趣旨で支払われていることが必要です。というのも、基本給とは別に何らかの手当が支給されている場合、その手当が残業代なのか?が争いになります。
裁判例は、就業規則や給与規程から各手当の実質、給与明細上の記載、実際の運用等を総合的に判断しています。
②明確区分性
基本給と固定残業代部分が、明確に区別されていることが必要です。
③差額支払合意
固定残業代を超えて時間外労働等を行った場合、差額の割増賃金を支払う合意があることが必要です。この要件は、法律上、当然のことであって、独立の要件として捉えるべきではないという見解もあります。