労働時間に関する最高裁判決(残業代の判例)
残業代請求では、労働時間について問題になることがあります。マンションの住込み管理人の労働時間を判断した最高裁判決を紹介します。
大林ファシリティーズ事件(最高裁平成19年10月19日判決)
マンションの住込み管理人の不活動時間が,労働時間かどうか?が争われた事案です。
事案の概要
被上告人らは,本件会社にマンション管理員として雇用され,本件マンションに住み込みで勤務した。
なお,管理員の業務は,実作業に従事しない時間が多く,軽易であるから,基本的には1人で遂行することが可能であったが,一方が巡回等で管理員室外に出ている間,他方が管理員室で受付等の対応をする必要がある場合があることなどから,本件会社では,夫婦を共に管理員として雇用していた。
本件会社の課長らは,被上告人らを雇用した際,被上告人らに対し,社団法人高層住宅管理業協会が作成した「管理員業務マニュアル」を用いて業務内容を説明したが,「aマニュアル」も併せて交付した。
本件会社は,被上告人らに対し,相互に協力し合って業務を遂行するように求めていたが,個々の業務をいずれが行うかについては被上告人らの話合いに任せていた。
また,被上告人らは,本件会社の指示により,管理日報を日々作成し,これを本件会社に提出していた。本件会社は,管理日報等により,定期的に被上告人らから業務に関する報告を受け,適宜業務についての指示をしていた。
平日の勤務状況
本件会社は,被上告人らに対し,所定労働時間内に,①管理員室での受付等の業務,②1階の店舗に納品される商品を収納したコンテナの台数の確認,③水道水の異常の有無の点検,④建物内外の巡回,⑤自転車置場の整理,⑥リサイクル用ごみの整理,⑦工事業者や来訪者の駐車依頼に対する対応,⑧宅配物等の受渡し,⑨管理日報・管理業務報告書の記載その他の報告等の業務を行うよう指示した。
本件会社は,被上告人らに対し,平日の午前9時以前及び午後6時以降において,①管理員室の照明点灯(午前7時),②ごみ置場の扉の開錠(同),③テナント部分の冷暖房装置の運転開始(午前8時30分),④テナント部分の冷暖房装置の運転停止(午後8時),⑤無断駐車の確認及び発見後の対応(午後9時),⑥ごみ置場の扉の施錠(同),⑦管理員室の照明消灯(午後10時)の業務を行うよう指示した(以下,これらの各業務と上記(ア)の各業務のことを「指示業務」ということがある。なお,③及び④の業務は,冷房については6月から9月まで,暖房については12月から3月までの期間の業務であった。)。
なお,本件マニュアルには,被上告人らは,所定労働時間外においても,住民や外来者から宅配物の受渡し等の要望があった場合はこれに随時対応すべき旨が記載されていた。
土曜日の勤務状況
本件管理委託契約上は土曜日も業務を行うことになっていたため,本件会社は,被上告人らに対し,原則として,平日と同様の業務を行うべきことを指示していた。もっとも,本件会社の就業規則上,土曜日は休日とされていたため,本件会社は,土曜日は被上告人らのいずれか1人が業務を行い,業務を行った者については翌週の平日のうち1日を振替休日とすることとし,被上告人らの承認を得ていた。土曜日の業務に関する本件会社の指示及び本件マニュアルの記載のうち,平日と異なる点は,①土曜日の勤務は1人で行うため巡回等で管理員室を空ける場合に他方が待機する必要はないこと,②冷暖房装置の運転停止の時刻が午後6時であることであった。
業務の性質が平日の業務と余り変わらないものであったことや住民の要望もあったため,実際には,被上告人らの土曜日の勤務状況は,平日とほとんど変わらないものであった。
日曜日・祝日の勤務状況
日曜日及び祝日は,被上告人らの休日であることから,本件会社は,管理員室の照明の点消灯,ごみ置場の扉の開閉以外には,被上告人らに対して業務を行うべきことを指示しておらず,その他の休日も同様であった。本件会社は,これらの日に被上告人らがやむを得ず仕事をした場合は,振替休日を取るよう指示していた。
業務の性質が平日の業務と余り変わらないものであったことや住民の要望もあったため,被上告人らは,実際には,日曜日及び祝日においても,受付業務等による住民との対応,宅配物等の受渡し,駐車の指示,自転車置場の整理,リサイクル用ごみの整理等に従事していた。もっとも,受付等の業務は,平日及び土曜日と比べて相当に少なかった。