刑事手続における押収物還付に関する最高裁決定を紹介します。
最高裁令和4年7月27日決定
捜査の過程で、警察官に差押えられた押収物の還付を求めた事案です。
事案の概要
申立人は、いわゆるナンパの方法を指導する塾を経営し、女性との性交場面を撮影した動画等を塾生のグループ内で共有するなどしていたところ、平成30年6月20日、塾生甲及び乙に対する集団準強姦被疑事件について、住居等の捜索を受け、その所有する携帯電話機2台(以下「不還付物件1」、「不還付物件2」という。)及びICレコーダー1台(以下、「不還付物件3」といい、不還付物件1ないし3を「本件各不還付物件」という。)を差し押さえられた。
申立人は、乙ら塾生と共謀して又は単独で、女性3名(A、B及びC)が飲酒酩酊のため抗拒不能であるのに乗じ性交をしたという準強制性交等被告事件について、令和2年3月12日、第1審裁判所において有罪判決を言い渡され、各原決定時には、控訴が棄却され、上告を申し立てていた。
不還付物件1及び3は、いずれも女性Dを被害者とする申立人及び塾生丙に対する各準強制性交等被疑事件に関するものであり、不還付物件1には、申立人が抗拒不能の状態で横たわるDの陰部に指を挿入している状況を撮影した動画データやDの顔の画像データが、不還付物件3には、申立人らとDらが事件現場内で過ごしている状況や事件前後の状況(Dの姓名を告げている場面を含む。)等を録音した音声データがそれぞれ記録されている。申立人は、同被疑事件については不起訴処分となったが、Dの同意があった旨主張するなどしていた。
また、不還付物件2は、女性Eを被害者とする甲らに対する各準強制性交等被告事件(有罪判決が確定している。)に関するものであり、Eの名刺や顔写真、Eの裸の姿態の画像データ等が記録されている。申立人は、同各被告事件については、参考人とされたものの、甲らの逮捕を知った後に、上記名刺及び顔写真の画像を他の塾生と共有して、Eへの接触を図るなどしていた。
そして、上記各データは、いずれもD及びEに無断で撮影又は録音されたものであり、これらが流布された場合には、D及びEの名誉、人格等を著しく害し、D及びEに多大な精神的苦痛を与えるなどの回復し難い不利益を生じさせる危険性がある。
最高裁の判断
最高裁は、本件各不還付物件の還付を認めませんでした。
申立人は、令和3年8月、東京地方検察庁検察官に対して本件各不還付物件の還付を請求し、さらに、同検察官が同年11月にした本件各処分に対する準抗告を申し立てた。同検察官が本件各処分に際して上記各データの消去に応ずるのであれば還付する旨申し出たのに対し、申立人は、同各データは申立人に対する上記強制性交等被告事件及び民事裁判において申立人の犯罪行為がなかったことを立証するために必要であるなどと主張しているが、同各データを含めた本件各不還付物件の還付を受けられないことにより申立人に著しい不利益が生じていることはうかがわれない。
以上のような事情の下においては、申立人が本件各不還付物件の還付を請求することは、権利の濫用として許されないというべきである。