公職選挙法251条によって当選が無効とされた場合の議員報酬等の返還の可否が問題になった最高裁判決を紹介します。
最高裁令和5年12月12日判決
有罪判決が確定し、当選が公職選挙法251条の規定により無効となり、遡って市会議員の職を失った元市議会議員に対して、市が、①政務活動費相当額及び②議員報酬等相当額の不当利得の返還等を求めた事案です。
事案の概要
Xは、平成31年4月7日に行われた大阪市議会の議員の選挙に当選した。
Xは、令和元年9月6日、上記選挙に関し、公職選挙法221条3項1号、同条1項1号の罪(公職の候補者による買収)により懲役1年、5年間執行猶予の有罪判決を受け、本件有罪判決は、令和2年2月13日に確定した。
市は、Xに対し、令和元年5月分から令和2年2月分までの議員報酬並びに令和元年6月分及び同年12月分の期末手当の合計額から源泉徴収税額を控除した1,001万0,611円を支給した。
Xは、令和元年6月19日、Xのみを所属議員とする会派を結成した。市は、本件会派に対し、令和元年7月分から令和2年2月分までの政務活動費合計410万4,000円を交付した。
①政務活動費
まず、政務活動費に関する原審と最高裁の判断は、以下のとおりです。
原審の判断
原審は、以下のとおり、市の不当利得返還請求権を認めました。
本件有罪判決が確定したため、Xの前記当選は公職選挙法251条の規定により無効となり、本件政務活動費の交付は遡ってその法律上の原因を欠くこととなるから、市は本件会派の唯一の所属議員であったXに対し本件政務活動費相当額の不当利得返還請求権を有する。
その一方で、以下のように、Xによる相殺の主張も認めました。
市は、本件会派が、本件有罪判決が確定する前に、本件政務活動費の一部を大阪市会政務活動費の交付に関する条例で定められた経費の範囲で使用して相応の調査研究等を行ったことによる利益を受けたものといえるから、Xは、市に対し、上記一部に相当する額の不当利得返還請求権を有する。
最高裁の判断
最高裁は、Xによる相殺の主張を認めず、市による不当利得返還請求権を全て認めました。
上記条例に基づき交付される政務活動費は、市会議員の調査研究その他の活動に資するために必要な経費の助成として交付されるものであって、同条例5条所定の政務活動の対価として交付されるものとはいえず、公職選挙法251条の規定により遡って市会議員の職を失った当選人を唯一の所属議員とする会派が政務活動を行っていたからといって、その活動により市が利益を受けたと評価することはできない。
上記当選人は、市に対し、上記会派の行った政務活動に関し、不当利得返還請求権を有することはないというべきである。
したがって、Xは、市に対し、相殺の抗弁に係る不当利得返還請求権を有するものということはできない。
②議員報酬
次に、議員報酬に関する原審と最高裁の判断は、以下のとおりです。
原審の判断
原審は、本件議員報酬等の支給は遡って法律上の原因を欠くこととなるから、市はXに対し本件議員報酬等相当額の不当利得返還請求権を有すると市による不当利得返還請求権を認めました。
一方で、Xが一定期間、議員として活動していたとして、Xによる相殺の主張を認めました。
市は、Xが、本件有罪判決が確定する前に、逮捕、勾留されていた期間を除き、市会議員として相応の活動を行ったことによる利益を受けたものといえるから、Xは、市に対し、上記期間を除く期間について支給された議員報酬及び期末手当の額に相当する額の不当利得返還請求権を有する。
最高裁の判断
最高裁は、以下のように、Xによる相殺を認めませんでした。
議員の選挙における当選人がその選挙に関し公職選挙法251条所定の罪を犯して刑に処せられた場合には、当該当選人は、自ら民主主義の根幹を成す公職選挙の公明、適正を著しく害したものというべきであり、同条は、このような点に鑑み、上記の場合における当選の効力を遡って失わせることとしているものと解される。このことからすれば、同条の規定により遡って市会議員の職を失った当選人が市会議員として活動を行っていたとしても、それは市との関係で価値を有しないものと評価せざるを得ない。
上記当選人は、市に対し、市会議員として行った活動に関し、不当利得返還請求権を有することはないというべきである。
したがって、Xは、市に対し、相殺の抗弁に係る不当利得返還請求権を有するものということはできない。