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海難審の裁決の取消訴訟に関する最高裁判決


海難審判所の裁決の取消訴訟の最高裁判決を紹介します。

最高裁令和6年1月30日判決

 職務上の過失によって海難を発生させたとして小型船舶操縦士の業務停止の懲戒処分とした海難審判所の裁決に対する取消訴訟です。

 原審裁判所が海難審判所と異なる事実を前提としているにもかかわらず、特に具体的事実を判決において明らかにしていませんでした。

事案の概要

 平成29年3月16日未明、小型船舶操縦士である上告人が船長として操船する長さ7.16mの動力船である甲船が、鹿児島県南さつま市A町のB漁港C地区の船だまりを出発し、無灯火の状態で航行していたところ、沖合からC船だまりに入るために航行していた長さ5.69mの動力船である乙船と衝突する事故が発生した。本件事故により、甲船は右舷船尾部に圧潰等を、乙船は船首部及び船底部に破口等を生じ、上告人が入院加療約2か月を要する右外傷性気胸等の傷害を負った。

 門司地方海難審判所は、本件事故に係る海難について、上告人及び乙船の船長を受審人として審判を行い、平成31年2月20日、上告人の小型船舶操縦士の業務を1か月停止し、乙船の船長を懲戒しない旨の裁決をした。本件裁決の理由の要旨は、次のとおりである。

(1) 上告人は、本件事故当日の午前1時28分にC船だまりを出発した甲船を無灯火の状態で北北西に向けて6ノットで進行させ、同日午前1時29分半少し過ぎ、左舷方に、高速で東方に移動する乙船の右舷側の灯火を初めて視認した。甲船及び乙船の航跡は原判決別紙2のとおりであり、上告人は、乙船と東防波堤の間を航過すべく左転を開始したが、乙船は7.6ノットに減速して右転を始めており、甲船がそのまま左転を続けると乙船の前路に進出する状況であった。しかし、上告人は、これに気付かず左転を続け、同日午前1時30分僅か前に6.7ノットに減速した乙船を右舷船首至近に認め、左舵一杯、全速力前進としたものの及ばず、同日午前1時30分、原判決別紙2記載の基点の北方20mの地点で乙船と衝突し、本件事故に至った。

(2) 本件事故は、甲船が、海上衝突予防法所定の灯火を表示することなく無灯火の状態で航行したばかりか、動静監視不十分で乙船の前路に進出したことによって発生したものであるところ、上告人には、夜間、C地区において、左舷方から接近する乙船の右舷側を認める状況下で左転を開始する場合、乙船の動静監視を十分に行うべき注意義務があったといえるから、これを怠った職務上の過失がある。

 本件裁決の認定と異なり、乙船は、右小回りという入港の慣行に反し、左側に膨らんだコースを本件事故の瞬間まで15ノットを超える高速で航行したものであり、衝突地点も、より北側であった蓋然性が高い。

原審の判断

 原審は、本件裁決の取消しを認めませんでした。

 上告人は、乙船が右転することを十分に予想できたというべきであるから、乙船の動静監視が不十分なまま左転を開始した点において、乙船の動静監視を十分に行うべき注意義務に違反する職務上の過失があったと認められる。また、上告人が夜間に無灯火航行をしたことは、法律上の注意義務を怠ったものであるところ、乙船から無灯火の甲船を視認することは困難であったと認められるから、本件事故と上記無灯火航行との間には因果関係がある。このような上告人の注意義務違反の内容等に照らすと、入港の慣行に反するコースを高速で航行した乙船の船長が懲戒を受けなかったとしても、上告人に対する懲戒は、やむを得ない範囲のものと認められる。そうすると、本件裁決は、乙船の速力や航跡について異なる事実を前提としているものの、上告人を上記のとおり懲戒すべきものとした本件裁決の判断に違法はない。

最高裁の判断

 最高裁は、審理を原審に差戻しました。

 原審は、乙船の速力、航跡及び甲船との衝突地点について本件裁決と異なる事実を認定しているのであるから、両船の各針路の状態、その見合関係、操船状況等衝突に至る経過についても本件裁決の認定と異なる事実を前提としているものというべきところ、これらの事実を具体的に認定説示していない。そのため、上告人が乙船を初めて視認した時点における両船の位置関係や速力が明らかでなく、仮にその時点で乙船の右転を予見し得たとしても、上告人がその動静を監視していれば右転を認識して衝突を回避することができたといえるものではないし、乙船から無灯火の甲船を視認することができた距離や乙船の船長による見張りの状況、乙船の速力等が明らかでなく、甲船が海上衝突予防法所定の灯火を表示していれば衝突を回避することができたといえるものでもない。そうすると、原審は、上告人が、上記灯火を表示し、乙船の動静を監視していれば上記衝突を回避することができたことを認定説示していないものといわざるを得ず、上記灯火を表示せずに甲船を進行させ、乙船を視認した後にその動静を十分に監視することなく甲船を左転させるなどした行為をもって、本件事故に係る海難につき上告人に職務上の過失があるものということはできない。

 したがって、上記行為をもって、本件事故に係る海難につき上告人に職務上の過失があるとした原審の判断には、職務上の過失に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。


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