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婚姻費用分担の合意無効確認訴訟の確認の利益


婚姻費用分担の合意の無効確認訴訟に確認の利益がないと判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和7年9月4日判決

 婚姻費用の支払いに関して、相手方の年収について錯誤があったとして、婚姻費用分担の合意の無効確認訴訟を提起した事案です。確認の利益が認められか?が問題になりました。

確認の利益

 確認訴訟を提起する場合、確認の利益がないとその訴えは却下されます。

 確認の利益は以下の3つの観点から判断されます。

確認の利益

①確認訴訟によることが適切か?

②確認対象の選択が適切か?

③即時確定の現実的必要性があるか?

 たとえば、原告は被告に対して500万円の貸金返還請求権があることの確認を求める訴えは、①の点で確認の利益はありません。500万円の返還を求める給付訴訟を提起する方が適切だからです。

事案の概要

 XとYは、婚姻後別居し、平成29年1月、XがYに対し婚姻費用として同月以降月額16万円を支払う旨の合意(以下「本件合意」という。)をした。以後、Xは、令和4年8月までの間、Yに対し、毎月同額を支払った。

 Yは、令和2年11月、東京家庭裁判所立川支部に対し、Xを相手方として、婚姻費用分担審判の申立てをした。同支部は、令和4年9月、本件合意はXの当時の年収につき実際の額よりも低廉な額を前提としていたところ、このことは本件合意に基づく婚姻費用の分担額を変更すべき事情に当たるから、上記申立てがされた令和2年11月以降の上記分担額を改めるべきであるとして、変更後の分担額と既払額との差額及び令和4年9月以降月額29万円の婚姻費用の支払をXに命ずる旨の審判をした。

 同審判の申立てに先立って、Yは、Xに対し、Xの年収について錯誤があったとして本件合意の無効確認を求める訴訟を提起した。

原審の判断

 原審は、本件訴えが本件合意という過去の法律関係の存否を確定することを求める確認の訴えであるとした上で、以下のとおり判断し、本件訴えを不適法として却下した第1審判決を取り消し、本件を第1審に差し戻しました。

 夫婦の間に婚姻費用合意が有効に成立した場合、以後の婚姻費用の分担の内容は婚姻費用合意によることとなり、家庭裁判所は、事情の変更が生じたと認められない限り、婚姻費用分担の審判をすることができず、事情の変更が生じたと認められるとしても、婚姻費用合意がされた時点から事情の変更が生じたと認められる時点までの婚姻費用については、婚姻費用合意に基づく分担額と異なる分担額の支払を命ずる審判をすることができないから、夫婦の一方が婚姻費用分担審判の手続において婚姻費用合意と異なる分担の内容を形成することを求める場合には、これに先立ち、民事訴訟において婚姻費用合意が無効であることを確定することが紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要である。したがって、夫婦間における婚姻費用合意の無効確認を求める訴えは、確認の利益を有するものとして適法である。

最高裁の判断

 最高裁は、原審の判断を覆し、確認の利益はないと判断しました。

 過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される。

 婚姻費用の分担義務は、夫婦の生活の経済的な安定に関わるものである一方、その時々で変動する夫婦の収入、生活状況等の影響を受け得るものであることに照らすと、婚姻費用の分担の内容は、婚姻費用合意によって、以後、固定されるものではなく、適時に新たな形成があり得るものである。このため、婚姻費用分担審判の手続において、婚姻費用合意が有効に成立したか否かが争われるとともに、婚姻費用合意と異なる分担の内容を形成することを求める旨の主張がされた場合、家庭裁判所は、婚姻費用合意の存否、効力及び内容のみならず、夫婦の収入、生活状況等の一切の事情も踏まえ、婚姻費用の分担額やその支払の始期等を検討し、婚姻費用の分担の内容を新たに形成する審判をすることになる。そうすると、別途民事訴訟で婚姻費用合意が有効に成立したか否かが確定されていないからといって、家庭裁判所が婚姻費用合意と異なる分担の内容を形成することが妨げられるわけではない(なお、上記の場合において、当事者が、婚姻費用合意が有効に成立したとしてもこれと異なる分担額を形成するよう主張しているときは、家庭裁判所は、審理の結果、婚姻費用合意に基づく分担額を改めるべき事情がないとの結論に達したとしても、申立てを不適法却下することなく、当該分担額と同額の分担額を新たに形成する審判をすることができる。)。また、婚姻費用の分担の内容の形成をすることができない民事訴訟で婚姻費用合意が有効に成立したか否かのみ確認することをあえて認めるとすれば、家庭裁判所がその帰すうを待つことになり、夫婦の生活の経済的な安定のため適時に審判によってされるべき婚姻費用の分担の内容の形成が遅滞することになりかねない。したがって、婚姻費用合意が有効に成立したか否かについて別途確認の訴えをもって争うことを認める必要があるとはいえず、これを認めることが適切であるともいえない。

 以上によれば、婚姻費用合意が有効に成立したか否かを民事訴訟で確認することが、婚姻費用の分担の内容に係る紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要であるとはいえない。

 したがって、夫婦間における婚姻費用合意の無効確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であるというべきである。


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