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被用者の使用者に対する求償権行使の可否に関する最高裁判決


被用者の使用者に対する求償権行使の可否に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁令和2年2月28日判決

 被用者が、使用者の事業の執行に伴い第三者に損害を加えた場合、使用者は当該第三者に対して、損害賠償責任を負います(民法715条1項)。そして、使用者が第三者に損害賠償を行った場合は、使用者は、被用者に求償することができます(民法715条3項)。

 もっとも、被用者は被用者で第三者に対して損害賠償責任を負っています。したがって、第三者は、被用者と使用者のどちらにも請求ができます。では、被用者が、第三者に損害賠償を行った場合、使用者に対して求償権を行使することはできるのでしょうか?

事案の概要

 Yは資本金300億円以上の貨物運送業を営む株式会社であり、全国に多数の営業所を有している。Yは、その事業に使用する車両すべてに自動者保険契約等を締結していなかった。

 Xは、Yに雇用され、トラック運転手として荷物の運送業務に従事していた。

 Xは、平成22年7月26日、業務としてトラックを運転中、信号機のない交差点を右折する際、交差点に進入してきたAの運転する自転車にトラックを接触させ、Aを転倒させる事故を起こした。本件事故により、Aは死亡した。

 Aの相続人Bは、平成24年10月、Yに対して本件事故による損害賠償を求める訴訟を提起した。平成25年9月、BとYとの間で訴訟上の和解が成立し、YはBに和解金1,300万円を支払った。

 Aの相続人Cは、平成24年12月、Xに対して本件事故による損害賠償を求める訴訟を提起した。1審裁判所は、平成26年2月、46万円余り及び遅延損害金の支払を求める限度でCの請求を認容する判決を言い渡した。Xは、同年3月、判決に従い、Cに52万円余りを支払った。

 Cは、上記判決を不服として控訴した。控訴審裁判所は、平成27年9月、上記判決を変更し、1,383万円余り及び遅延損害金の支払を求める限度でCの請求を認容する判決を言い渡し、同判決は確定した。

 Xは、平成28年6月、上記判決に従い、Cのために1,552万円余りを有効に弁済供託した。

原審の判断

 原審は、以下のように、XのYに対する求償権行使を認めませんでした。

 被用者が第三者に損害を加えた場合、それが使用者の事業の執行についてされたものであっても、不法行為者である被用者が損害の全額について賠償し、負担すべきものである。民法715条1項の規定は、損害を被った第三者が被用者から損害賠償金を回収できないという事態に備え、使用者にも損害賠償義務を負わせることとしたものにすぎず、被用者の使用者に対する求償を認める根拠とはならない。また、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損賠賠償義務を履行した場合、使用者の被用者に対する求償が制限させることはあるが、これは、信義則上、権利行使が制限されているものにすぎない。

 したがって、被用者は、第三者の被った損賠を賠償をしたとしても、共同不法行為者間の求償として認められる場合を除き、使用者に対して求償することはできない。

最高裁の判断

 最高裁は、次のように判断し、一定の限度で、XのYに対する求償権の行使を認めました。

 民法715条1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしてものである。

 使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである。

 また、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができる。この場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当ではない。

 以上によれば、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるものと解すべきである。


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