債権仮差押とその後の示談の効力に関する最高裁判決を紹介します。
最高裁令和3年1月12日判決
債権仮差押後に、債務者と第三債務者が行った示談したことによって、仮差押債権の範囲が限定されるか?が争われた事案です。
事案の概要
Xは平成22年9月、Aが起こした強盗致傷事件の被害に遭った。Aの父Bは、平成26年9月、Yが起こした交通事故により死亡した。Bの相続人は、妻Cと子のA、D、Eである。
XはAらに損害賠償請求権①を有し、AらはYに損害賠償請求権②を有している。
平成27年11月、Xの申立てにより、Aらを債務者、Yを第三債務者として、損害賠償請求権①を請求債権、損害賠償請求権②(合計4,822万3,907円)を仮差押債権とする債権仮差押命令が発令された。
YとAらは、平成28年10月、以下の内容の示談をした。
①YはAらに合計4,063万2,940円の支払義務があることを認め、内金3,000万1,100円を速やかに支払う。
②内金が支払われたときは、YとAらの間に、本件示談で定めるほか、何ら債権債務がないことを確認する。
Aらは、その後、Yの自賠責保険会社から3,000万1,100円の立替払を受けた。
Xは、Aらに対する損害賠償請求権①を一部認容する仮執行宣言付き判決を得た。これを債務名義とし、損害賠償請求権②について、Aらを債務者、Yを第三債務者とする債権差押命令及び転付命令が発令され、本件差押転付命令が確定した。
争点
Xは、Yに対し、本件差押転付命令により取得した損害賠償請求権②に基づき、4,822万3,907円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めています。しかし、その後、損害賠償請求権②は、YとAの間で示談が成立しています。XはYに対して、本件示談で合意した損害賠償金4,063万2,940円を超える額の請求ができるのでしょうか?
原審の判断
原審は、本件示談金からAらが支払を受けた3,000万1,100円を差し引いた1,063万1,840円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度でXの請求を認容した。
本件各損害賠償請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権で、不法行為時点で具体的な金額を直ちに確定することができないものであった。
本件示談は、その金額をYのBに対する損害賠償金として社会通念上相当な金額である本件示談金額と確定した。本件示談は、本件仮差押命令により禁止されるXを害する処分とは認められず、XはYに対し、本件示談金額を超える額の請求はできない。
最高裁の判断
最高裁は,債権の仮差押後に行った示談は,仮差押債権者を害する限度で,仮差押債権者に対抗できないと判断しました。
債権の仮差押えを受けた仮差押債務者は,当該債権の処分を禁止されるので,仮差押債務者がその後,第三債務者との間で当該債権の金額を確認する旨の示談をしても,仮差押債務者及び第三債務者は,仮差押債権者を害する限度で,当該示談をもって仮差押債権者に対抗できない。
本件示談は,Aらが本件仮差押命令による仮差押えを受けた後にYと行ったもので,損害賠償請求権②の合計額が本件示談金額を超えないことを確認する趣旨を含むものと解される。本件仮差押命令の仮差押債権は,損害賠償請求権②のうち合計4822万3907円を満までの部分なので,本件示談金額が実際の損害賠償請求権②の合計額を下回る場合は遅延損害金を考慮するまでもなく,Xを害することになり,Yはその限度で,本件示談をもってXに対抗することができない。