民事訴訟において釈明権の行使を怠ったことを違法と判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁令和4年4月12日判決
民事訴訟において、裁判官が釈明権の行使を怠ったことを違法と判断した最高裁判決です。
釈明権
裁判長は、口頭弁論期日等において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上・法律上の事項について、当事者に発問したり立証を促したりすることができます(民訴法149条)。この裁判長の権限を釈明権といいます。
(釈明権等)
第百四十九条 裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる。
釈明権には、①消極的釈明と②積極的釈明の2つがあります。
①は、当事者の主張に不明瞭や矛盾などがある場合に、それらを明瞭にするために行使するものです。
②は、当事者の主張が不適当である場合や当事者が適当な主張をしていない場合に、裁判所が積極的にそのことを指摘し是正するために行使するものです。
①の釈明権は、行使することが許されます。また、行使しなければならないと解されています。②の釈明権の行使がどの程度必要か?は、ケースバイケースです。
事案の概要
上告人は、被上告人に対し、本件建物について上告人が共有持分権を有することの確認を求める旨を訴状に記載して、本件訴えを提起した。上告人は権利能力のない社団であり、上記訴状にもそのことが記載されていた。
第1審において、上告人は、本件建物の建築時に上告人及び被上告人を含む3町内会の間で本件建物をその3町内会の共有とする旨の合意がされた旨主張した。これに対し、被上告人は、本件合意がされた事実はないから、上告人は本件建物の共有持分権を有しない旨主張した。
第1審は、本件合意の存否が本件の争点であり、本件合意があったと認められるとして、本件請求を認容する判決をし、被上告人が控訴した。
原審においても、上告人及び被上告人は、専ら本件合意の存否に関する主張をした。第1審及び原審において、上告人が本件建物の共有持分権の主体となり得るか否かという点について主張がされることはなく、この点が問題とされることもなかった。
原審の判断
原審は、本件請求は本件建物の共有持分権が上告人自体に帰属することの確認を求めるものであるところ、権利能力のない社団である上告人が所有権等の主体となることはできないとして、本件請求を棄却した。
最高裁の判断
本件の第1審及び原審において、当事者双方は、専ら本件合意の存否に関して主張をし、これを立証の対象としてきたものであって、上告人が所有権等の主体となり得るか否かが問題とされることはなかった。権利能力のない社団がその名において取得した資産は、その構成員全員に総有的に帰属するものであるところ、当事者双方とも上記判例と異なる見解に立っていたものとはうかがわれない。
そうすると、本件請求については、本件建物の共有持分権が上告人の構成員全員に総有的に帰属することの確認を求める趣旨に出るものであると解する余地が十分にあり、原審は、上記共有持分権が上告人自体に帰属することの確認を求めるものであるとしてこれを直ちに棄却するのではなく、上告人に対し、本件請求が上記趣旨に出るものであるか否かについて釈明権を行使する必要があったといわなければならない。
したがって、原審が、上記のような措置をとることなく、本件請求は上記確認を求めるものであるとしてこれを棄却したことには、釈明権の行使を怠った違法がある。