法律事務所エソラ

大阪市東淀川区阪急淡路駅・西口すぐの法律事務所、債務整理・交通事故・労災・残業代請求は無料相談実施中

事前予約で夜間・土日祝日の相談も可能です06-6195-6503受付時間 9:00-18:00 [ 土・日・祝日除く ]

メールでのお問合せはこちら お気軽にお問い合わせください

公務員の懲戒処分と退職金の不支給処分の可否を判断した最高裁判決


公務員の懲戒処分と退職金の不支給処分について判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和6年6月28日判決

 市の職員であったXが、飲酒運転等を理由とする懲戒免職処分を受けたことに伴い、退職手当管理機関である市長から、市職員退職手当支給条例の本件規定により一般の退職手当の全部を支給しないこととする処分を受けたため、Yを相手に、上記各処分の取消しを求めた事案です。

 同様の事案の最高裁判決である公務員の懲戒処分に関する最高裁判決も参照

事案の概要

 本件規定は、退職者が懲戒免職処分を受けて退職をした者に該当するときは、当該退職に係る退職手当管理機関は、当該退職者に対し、当該退職者が占めていた職の職務及び責任、当該退職者の勤務の状況、当該退職者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職者の言動、当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、当該退職に係る一般の退職手当の全部又は一部を支給しないこととする退職手当支給制限処分を行うことができる旨を規定する。

 Xは、平成3年4月にYの職員に採用され、平成29年4月以降、総務部a課長の職にあった者である。Xには、本件懲戒免職処分を除き、懲戒処分歴はない。

 Xは、平成30年8月7日午後5時頃から午後10時30分頃まで、自宅からの転居を予定していたマンションの一室において、同僚らを招いて飲食し、ビール及び酎ハイ各1本並びに発泡酒5本程度(いずれも350mL)を飲んだ。

 Xは、同日午後11時頃、約5㎞離れた自宅に帰るため、借り受けていた自動車に乗ってその運転を開始したところ、本件マンションの立体駐車場(内において、本件自動車の前部を駐車中の被害自動車の前部に接触させてそのフロントバンパーを脱落させる事故(「第1事故」)を起こした。Xは、第1事故につき直ちに本件マンションの管理人や上司等の関係者に連絡することなく本件自動車の運転を続けたところ、さらに、本件自動車を道路の縁石に接触させ、縁石に設置された反射板をはがして本件自動車にオイル漏れを生じさせる事故(「第2事故」)を起こしたが、そのまま本件自動車を運転して帰宅した。

 Xは、翌8日朝、本件マンションに赴き、管理人に第1事故を起こした旨を伝えるなどした後、警察に通報した。Xは、臨場した警察官に対し、当初、同日の朝に第1事故を起こした旨の虚偽の説明をしたが、警察官から前夜の事故ではないかと指摘を受け、その旨を認めた。また、Xは、上司に電話して第1事故を起こしたこと等について報告し、後日、本件各事故に係る物的損害について被害弁償を行った。

 市長は、Xに対し、平成30年10月12日付けで、Xが同年8月7日に飲酒した上で本件自動車を運転し、本件駐車場内で被害自動車に接触し、その後必要な措置をとることなく、公道を走行して帰宅した本件非違行為を理由として、本件懲戒免職処分をした上で、一般の退職手当(1,620万4,488円)の全部を支給しないこととする本件全部支給制限処分をした。

原審の判断

 原審は、本件懲戒免職処分は適法であると判断した上で、本件全部支給制限処分の取消請求は認容しました。

 本件非違行為の態様等からすれば、一般の退職手当が相応に減額されることはやむを得ないものとして、その合理性を認めることができるが、本件非違行為によって生じた事故はいずれも物損事故にとどまること、Xは、第1事故の直後ではないものの関係者に連絡し、その後被害弁償等も行っていること、本件非違行為が私生活上のものであること、Xが長期にわたって懲戒処分歴なく勤続し、総務部a課長としてYの重要施策に貢献したことなども勘案し、従前における公務貢献の程度と本件非違行為の内容及び程度等を比較衡量すると、本件非違行為は、一般の退職手当を全額支給しないことが相当といえるほどに重大なものであるとまでいうことはできず、本件全部支給制限処分は、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法である。

最高裁の判断

 最高裁は、原審の判断を覆し、本件全部支給制限処分の取消請求を棄却しました。

 本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を退職手当管理機関の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきである。

 Xは、長時間にわたり相当量の飲酒をした直後、帰宅するために本件自動車を運転したものであって、2回の事故を起こしていることからも、上記の運転は、重大な危険を伴うものであったということができる。そして、Xは、本件自動車の運転を開始した直後に本件駐車場内で第1事故を起こしたにもかかわらず、何らの措置を講ずることもなく運転を続け、さらに、第2事故を起こしながら、そのまま本件自動車を運転して帰宅したというのであるから、本件非違行為の態様は悪質であって、物的損害が生ずるにとどまったことを考慮しても、非違の程度は重いといわざるを得ない。

 また、Xは、本件非違行為の翌朝、臨場した警察官に対し、当初、第1事故の発生日時について虚偽の説明をしていたものであり、このような非違後の言動も、不誠実なものというべきである。

 さらに、Xは、本件非違行為の当時、管理職である課長の職にあったものであり、本件非違行為は、職務上行われたものではないとしても、Yの公務の遂行に相応の支障を及ぼすとともに、Yの公務に対する住民の信頼を大きく損なうものであることが明らかである。

 これらの事情に照らせば、本件各事故につき被害弁償が行われていることや、Xが27年余りにわたり懲戒処分歴なく勤続し、Yの施策に貢献してきたこと等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る市長の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。

 以上によれば、本件全部支給制限処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、退職手当支給制限処分に係る退職手当管理機関の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。


PAGE TOP