作業報奨金を差押えることができるか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁令和4年8月17日決定
被害者が、加害者である受刑者の作業報奨金(刑事収容施設法及び被収容者等の処遇に関する法律98条1項)の支給権を差押えた債権差押の事案です。
刑務作業を行った受刑者に支給される作業報奨金の支給権を差押えることができるか?が問題になりました。
差押禁止債権
民事執行法152条は、差押えができない債権、つまり、差押禁止債権について規定しています。差押禁止債権を差押えることはできません。
民事執行法152条以外に個別の法律で差押禁止を規定している場合があります。この場合も当該債権を差押えることはできません。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条が作業報奨金について規定しています。同条は作業報奨金の支給権について、差押禁止だとは規定していません。
最高裁の判断
最高裁は、以下のとおり、作業報奨金の支給を受ける権利を差押えることはできないと判断しました。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条は、作業を行った受刑者に対する作業報奨金の支給について定めている。同条は、作業を奨励して受刑者の勤労意欲を高めるとともに受刑者の釈放後の当座の生活費等に充てる資金を確保すること等を通じて、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰に資することを目的とするものであると解されるところ、作業を行った受刑者以外の者が作業報奨金を受領したのでは、上記の目的を達することができないことは明らかである。そうすると、同条の定める作業報奨金の支給を受ける権利は、その性質上、他に譲渡することが許されず、強制執行の対象にもならないと解するのが相当である。したがって、上記権利に対して強制執行をすることはできないというべきである。このことは、受刑者の犯した罪の被害者が強制執行を申し立てた場合であっても異なるものではない。