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業務上横領罪の共犯者が非身分者の場合の公訴時効期間を判断した最高裁判決


他人の者の非占有者が、業務上占有者と共謀し横領した場合の公訴時効の期間を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和4年6月9日判決

 他人の者の非占有者が、業務上占有者と共謀して横領した場合の公訴時効の期間が問題となった事案です。身分犯の共犯に関する問題です。

公訴事実の要旨

 被告人は、株式会社Bの取締役兼総務経理部長として同社の経理業務を統括していたCと共謀の上、平成24年7月5日、同社名義の銀行口座の預金をCにおいて同社のために業務上預かり保管中、東京都内の同社事務所において、自己の用途に費消する目的で、Cにおいて、情を知らない同社職員に指示して、上記口座から、Cらが管理する銀行口座に、現金2,415万2,933円を振込入金させ、もってこれを横領した。

身分犯とは?

 行為者に一定の身分があることが構成要件要素となっている犯罪を身分犯といいます。

 横領罪は、委託により他人の物を占有する者が主体の犯罪です。したがって、身分犯です。さらに、業務上横領罪は、業務により他人の物を占有する者が主体の犯罪で身分犯です。業務上横領罪は、①他人の物の占有者と②業務者という二重の意味での身分犯です。

 身分犯には、真正身分犯と不真正身分犯の2つに区別されます。

 真正身分犯は、行為者が一定の身分を有することで初めて犯罪として成立する犯罪です。たとえば、横領罪は、真正身分犯です。

 不真正身分犯は、身分がなくても犯罪は成立するが、一定の身分を有することで通常より加減された法定刑が定められた犯罪です。たとえば、常習賭博罪は不真正身分犯です。

共犯と身分犯

 身分犯について、身分者と非身分者が共犯関係になる場合があります。この場合の取扱いを刑法65条が規定しています。

(身分犯の共犯)

第六十五条 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。

2 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。

 1項は、身分によって構成すべき犯罪に非身分者が加担した場合、非身分者も共犯として処罰すると規定しています。

 2項は、身分によって刑に軽重がある場合、非身分者には通常の刑を科すと規定しています。

 通説・判例は、1項が真正身分犯、2項が不真正身分犯についての規定だと解しています。

 判例の考えによると、本件では、Cには業務上横領罪が成立し、非身分者である被告人は、65条1項により業務上横領罪の共犯になるが、65条2項によって、単純横領罪の刑が科されます。

争点

 以上を前提に、被告人について、公訴時効の期間は、業務上横領罪の法定刑を基準にするのか?単純横領罪の法定刑を基準にするのか?が争われました。

 業務上横領罪を基準にすると公訴時効の期間は7年、単純横領罪を基準にすると公訴時効の期間は5年です。

1審の判断

 1審は、横領罪の法定刑を基準に、5年の公訴時効期間が経過しているとして、免訴を言い渡しました。

 第1審判決は、被告人の行為は、刑法65条1項により、同法60条、253条(業務上横領罪)に該当するが、被告人には業務上の占有者の身分がないので、同法65条2項により同法252条1項(横領罪)の刑を科することとなるとした。その上で、公訴時効の成否について、公訴時効の期間は、科される刑を基準として定めるべきであるとし、横領罪の法定刑(5年以下の懲役)を基準として刑訴法250条を適用すると、公訴時効の期間は5年(同条2項5号)であるから、本件の犯罪行為が終了した平成24年7月5日から起算して、本件の公訴提起がされた令和元年5月22日には公訴時効が完成していたとして、被告人に対し、同法337条4号により免訴を言い渡した。

原審の判断

 原審は、業務上横領罪の法定刑を基準に、まだ公訴時効期間は経過していないとして、被告人を懲役2年の有罪としました。

 第1審判決の認定した犯罪事実及び本擬律を前提に、公訴時効の期間は、成立する犯罪の刑を基準として定めるべきであるとし、業務上横領罪の法定刑(10年以下の懲役)を基準として刑訴法250条を適用すると、公訴時効の期間は7年(同条2項4号)であるから、本件の公訴提起時に公訴時効は完成していないとして、第1審判決を法令適用の誤りを理由に破棄し、第1審判決と同旨の犯罪事実を認定して、被告人を懲役2年に処した。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のように、公訴時効の成立を認めた1審判決を正当と判断しました。

 公訴時効制度の趣旨は、処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにあり、刑訴法250条が刑の軽重に応じて公訴時効の期間を定めているのもそれを示すものと解される。そして、処罰の必要性(行為の可罰的評価)は、犯人に対して科される刑に反映されるものということができる。本件において、業務上占有者としての身分のない非占有者である被告人には刑法65条2項により同法252条1項の横領罪の刑を科することとなるとした第1審判決及び原判決の判断は正当であるところ、公訴時効制度の趣旨等に照らすと、被告人に対する公訴時効の期間は、同罪の法定刑である5年以下の懲役について定められた5年(刑訴法250条2項5号)であると解するのが相当である。これによれば、本件の公訴提起時に、被告人に対する公訴時効は完成していたことになる。

 以上によれば、原判決は、法令の解釈適用を誤り、名古屋高裁判決と相反する判断をしたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。

 よって、弁護人のその余の上告趣意に判断を加えるまでもなく、刑訴法405条3号、410条1項本文により、原判決は破棄を免れず、上記の検討によれば、被告人に対し公訴時効の完成を理由に免訴を言い渡した第1審判決は正当であり、検察官の控訴は理由がないことに帰するから、同法413条ただし書、414条、396条によりこれを棄却する。


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