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養育費と先取特権


令和6年5月の家族法改正により養育費の規定が新設されました。その内の養育費の先取特権の付与を取上げます。

家族法の改正

 共同親権の導入等を内容とする民法の家族法の改正法が、令和6年5月17日に成立し、同24日に公布されました。

 なお、改正法の施行は公布日から2年以内の政令で定める日となっています。

養育費の規定の新設

 家族法の改正では、養育費に関する多くの規定が新設されました。

養育費請求権に先取特権付与

 離婚に際して、養育費の取決めを行っても、実際に養育費が支払われなければ意味がありません。

 養育費の支払いの実効性を確保するため、民法の改正により、養育費請求権は、子の監護費用の先取特権として、一般の先取特権が付与されます(民法306条3号)。

先取特権

 先取特権は、法定担保物権の一つです。当事者間の合意ではなく、一定の債権者が当然に取得する権利です。

 また、先取特権は、他の債権者に先立って自分の債権の弁済を受けることができる権利です(民法303条)。

 先取特権には、①一般の先取特権、②動産先取特権、③不動産先取特権の3種類あります。それぞれ、担保目的物が異なります。

 養育費請求請求権は、一般の先取特権なので、債務者の全財産が担保目的物となります。

 したがって、他の一般債権者に優先して、債務者の全財産から弁済を受けることができます。強制執行が競合した場合や債務者が破産した場合に、他の一般債権者より優先的に取扱われます。

先取特権の対象となる債権

 先取特権の対象となる債権は、婚姻費用・養育費・法定養育費・扶養料の子の監護の費用です。

 これらの債権の確定期限の定めのある定期金債権の各期における定期金のうち子の監護に要する費用として相当な額が、先取特権の対象となります。

 具体的な金額は、子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して当該定期金により扶養を受けるべき子の数に応じて法務省令で定めることになっています(民法308条の2)。

 したがって、当事者間の合意・審判で決められた債権の全額が先取特権の対象となるわけではありません。

先取特権の行使

 先取特権を行使する場合、債権者は、担保権の存在を証明する文書を執行裁判所に提出すれば、債務者の財産に対して強制執行を申立てることができます(民事執行法193条1項)。

 つまり、通常、強制執行に必要な判決等の債務名義は不要です。

 ただし、担保権の存在を証明する文書の提出が困難な場合もあります。養育費の場合は、協議離婚時に養育費の支払について合意した合意書が想定されます。

 上記のとおり、先取特権の対象となる養育費の範囲が限定されています。そのため、当事者間の合意や審判で決められた養育費の全額について強制執行するには、債務名義が必要となります。 


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