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再転相続の熟慮期間に関する最高裁判決


再転相続における相続放棄の熟慮期間に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁令和元年8月9日判決

 再転相続について、相続放棄の熟慮期間の起算点である民法916条の「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」が問題となった事案です。

再転相続と熟慮期間

 Aが死亡し、①BがAを相続したにもかかわらず、BがAの相続について、承認・放棄をしないまま死亡することがあります。このような場合に、②CがBの相続人となることを再転相続といいます。

 再転相続では、Cは、①AからBへの相続と②BからCへの相続について、別個に、承認するか放棄するかを選択することができます。

 ①AからBへの相続についての相続をするか、相続放棄をするかの熟慮期間について、民法916条は、「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から進行すると規定しいます。

第九百十六条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

 「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、Cが、自分がBの相続人となったことを知ったときから進行すると解されていました。つまり、Cは、①AからBの相続について知らなくても、②CがBの相続人となったことを知ったときから、AからBの相続の熟慮期間が進行すると解されていました。

事案の概要

 X銀行は、Y社に対して貸金等の支払いを求め、Aら4名に対し、当該貸金等に係る連帯保証債務の履行をとして各8,000万円を求める訴訟を提起した。平成24年6月7日、X銀行の請求をいずれも認容する判決が言い渡され、同判決は確定した。

 Aは、平成24年6月30日に死亡し、Aの相続人は、妻と2名の子であったが、同年9月に子らの相続放棄の申述が受理された。

 相続放棄により、Aの兄弟4名と既に死亡していたAの兄弟2名の子ら7名がAの相続人となった。平成25年6月、Aの弟Bと1名を除く9名による相続放棄の申述が受理された。

 Bは、平成24年10月19日、自分がAの相続人となったことを知らず、Aからの相続について相続放棄の申述をすることなく死亡した。Bの相続人は、妻と子である被上告人外1名であった。被上告人は、同日頃、被上告人がBの相続人となったことを知った。

 X銀行は、平成27年6月、上告人に対し、本件確定判決に係る債権を譲渡し、Y社に対し、債権譲渡通知を内容証明郵便で行った。

 上告人は、平成27年11月2日、本件確定判決正本に基づき、X銀行の承継人である上告人が、Aの承継人である被上告人に対して本件債務名義に係る請求権について32分の1の額の範囲で強制執行ができる旨の承継執行文の付与を受けた。

 被上告人は、平成27年11月11日、本件債務名義、承継執行文の謄本等の送達を受けた。被上告人は、本件送達によって、BがAの相続人であり,被上告人がBからAの相続人としての地位を承継している事実を知った。

 被上告人は、平成28年2月5日、Aからの相続について相続放棄の申述をし、同月12日、当該申述が受理された。

最高裁の判断

 最高裁は、再転相続の熟慮期間について、上記のA→B→Cの例だと、Cが①AからBの相続について知った時から熟慮期間が進行すると判断しました。

 相続の承認又は放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく、被相続人から相続財産を承継するかどうかについて選択する機会を与えるものである。熟慮期間は、相続人が相続について承認又は放棄のいずれかを選択するに当たり、被相続人から相続すべき相続財産につき、積極及び消極の財産の有無、その状況等を調査し、熟慮するための期間である。そして、相続人は、自己が被相続人の相続人となったことを知らなければ、当該被相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないので、民法915条1項本文が熟慮期間の起算点として定める「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、原則として、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいう。

 民法916条の趣旨は、乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには、乙から甲の相続人としての地位を承継した丙において、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて、丙の認識に基づき、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにある。

 再転相続人である丙は、自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。また、丙は、乙からの相続により、甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継はしてはいるものの、丙自身において、乙が甲の相続人であったことを知らなければ、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。丙が、乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず、丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって、甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。

 以上によれば、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。

 なお、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について、乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かに関わらず民法916条が適用されることは、同条がその適用がある場面につき、「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したとき」とのみ規定していること及び同条の趣旨から明らかである。

 被上告人は、平成27年11月11日の本件送達により、BからAの相続人としての地位を自己が承継した事実を知ったので、Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間は、本件送達の時から起算される。そうすると、平成28年2月5日に申述がされた本件相続放棄は、熟慮期間内にされたものとして有効である。 


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