離婚に伴う慰謝料請求権が、いつ履行遅滞に陥るか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁令和4年1月28日判決
離婚に伴う慰謝料請求権の遅延損害金の利率が問題になった事案です。その判断の前提として、離婚に伴う慰謝料債務がいつ履行遅滞に陥るのか?が問題になりました。
というのも、民法の債権法改正により、法定利息の利率が5%から3%になったからです(民法改正と交通事故の損害賠償参照)。
本件では、離婚に伴う慰謝料債務が、①婚姻関係破綻時に履行遅滞に陥るのなら、改正前の5%の利率が適用されます。②離婚判決確定時に履行遅滞に陥るのなら、改正後の3%の利率が適用されます。
事案の概要
XとYは、平成16年11月に婚姻の届出をした。婚姻後同居し、2子をもうけたが、平成29年3月に別居するに至った。
その後、Xが、本訴として、Yに対し、離婚を請求し、Yが、反訴として、Xに対し、離婚を請求するとともに、不法行為に基づき、離婚に伴う慰謝料及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
原審の判断
原審は、以下のとおり、離婚に伴う慰謝料債務は、婚姻関係破綻時に履行遅滞に陥ると判断しました。
Yの慰謝料請求は、XがYとの婚姻関係を破綻させたことに責任があることを前提とするものであるところ、婚姻関係が破綻した時は、民法の債権法改正の施行日である令和2年4月1日より前であると認められるから、上記の慰謝料としてXが負担すべき損害賠償債務の遅延損害金の利率は、改正法による改正前の民法所定の年5分と解するのが相当である。
最高裁の判断
最高裁は、離婚に伴う慰謝料債務は、離婚成立時である離婚判決の確定時に履行遅滞に陥ると判断しました。
離婚に伴う慰謝料請求は、夫婦の一方が、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり、このような損害は、離婚が成立して初めて評価されるものであるから、その請求権は、当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。そして、不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく、遅滞に陥るものである。
したがって、離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
以上によれば、離婚に伴う慰謝料としてXが負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時である本判決確定の時に遅滞に陥るというべきである。したがって、改正法の施行日前にXが遅滞の責任を負ったということはできず、上記債務の遅延損害金の利率は、改正法による改正後の民法404条2項所定の年3パーセントである。
なお、Yの慰謝料請求は、Xとの婚姻関係の破綻を生ずる原因となったXの個別の違法行為を理由とするものではない。そして、離婚に伴う慰謝料とは別に婚姻関係の破綻自体による慰謝料が問題となる余地はないというべきであり、Yの慰謝料請求は、離婚に伴う慰謝料を請求するものと解すべきである。