保有個人データの開示請求を取り上げます。
保有個人データの開示請求
改正前の個人情報保護法下では、保有個人データの開示を個人情報取扱事業者の義務とし、本人は開示を求めることができるとしていました。しかし、保有個人データの開示請求が、裁判所に訴えを提起できる請求権なのか?について疑義がありました。
そこで、平成27年の個人情報保護法の改正により、保有個人データの開示請求について、訴えを提起できる請求権であることが明記されました。
(開示)
第三十三条 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの電磁的記録の提供による方法その他の個人情報保護委員会規則で定める方法による開示を請求することができる。
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けたときは、本人に対し、同項の規定により当該本人が請求した方法(当該方法による開示に多額の費用を要する場合その他の当該方法による開示が困難である場合にあっては、書面の交付による方法)により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合
3 個人情報取扱事業者は、第一項の規定による請求に係る保有個人データの全部若しくは一部について開示しない旨の決定をしたとき、当該保有個人データが存在しないとき、又は同項の規定により本人が請求した方法による開示が困難であるときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
4 他の法令の規定により、本人に対し第二項本文に規定する方法に相当する方法により当該本人が識別される保有個人データの全部又は一部を開示することとされている場合には、当該全部又は一部の保有個人データについては、第一項及び第二項の規定は、適用しない。
5 第一項から第三項までの規定は、当該本人が識別される個人データに係る第二十九条第一項及び第三十条第三項の記録(その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるものを除く。第三十七条第二項において「第三者提供記録」という。)について準用する。
保有個人データの開示を請求
個人情報取扱事業者に対して義務付けられているのは、あるがままの保有個人データの内容の開示です。そのデータの入手先等の新たな情報を作成して開示させる趣旨ではありません。
ただし、データの入手先に関する情報が、本人が識別される保有個人データの一部として記録されている場合は、2項但書に該当しない限りは開示する必要があります。
なお、同一のデータがバックアップシステムなど複数記録されている場合、保有個人データの開示はその中のどれかから1回開示することで足ります。
政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない
本人から保有個人データの開示請求があった場合、個人情報取扱事業者は原則、開示請求に応じなければなりません。
個人情報保護法施行令は、書面の交付による方法を原則としています。そして、開示請求者が同意した場合は、同意した方法によることができると規定しています。
たとえば、電子メールに添付ファイルを送付することで開示する場合、書面の交付ではありません。したがって、開示請求の同意がなければ、その方法で開示することはできません。
開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる
開示請求された保有個人データについて一定の場合は、開示しないことができます。
不開示事由に該当するかどうかは、開示請求に応じて、個人情報取扱事業者が個々に客観的に判断することになります。
規定上は「開示しないことができる」とし、開示義務を免除しています。2項但書は、開示請求に対して法的に保護する必要から規定されたものです。そのため、2項但書に該当するにもかかわらず、個人情報取扱事業者が保有個人データを開示することは、この規定の趣旨に反することになると考えられます。
本人又は第三者の生命,身体,財産その他の権利利益を害するおそれ
ここでいう第三者は本人と個人情報取扱事業者以外の者をいい,自然人・法人・その他の団体かは問いません。
その他の権利利益とは,本人又は第三者に関する法律上の保護に値する利益全般を指します。
「害するおそれ」と規定しているのは,具体的な支障が将来発生することによるものです。物理的,確立的な可能性ではなく,社会通念による蓋然性の有無の判断によります。
個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれ
業務の適正性の判断は,事業者のみの観点によらずに総合的になされるべきとされています。
著しい支障とは,本人との関係で通常の支障では足りず,より重い負担を課すものです。著しいかどうかは,社会通念で判断することになります。
保有個人データを開示することで,個人情報取扱事業者の重要な企業機密が明らかになるような場合が該当すると考えられます。