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本訴請求の請負代金請求権を自働債権、反訴請求の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を受働債権とする相殺の可否


本訴請求の請負代金請求権を自働債権、反訴請求の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を受働債権とする相殺の可否を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和2年9月11日判決

 本訴請求は、請負人Xが注文者Yに対して請負代金を請求し、反訴請求は、注文者Yが請負人Xに対して瑕疵修補に代わる損害賠償請求を求めた事案です。

 本件訴訟において、Xは、Yに対し、本訴請求の請負代金請求権を自働債権、反訴請求の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を受働債権とする相殺の意思表示を行いました。このXによる相殺が、認められるか?が問題になった事案です。

事案の概要

 Yは、平成25年9月、建築物の設計、施工等を営むXとの間で、請負代金額を750万円として自宅建物の増築工事の請負契約を締結した。Yは、その後、同年11月までの間に、Xに対し、上記工事の追加変更工事を発注した。

 Xは、平成25年12月までに、上記増築工事及び追加変更工事を完成させ、完成した自宅建物の増築部分をYに引き渡した。

 本件請負契約に基づく請負代金の額は829万1,756円である。他方、上記増築部分には瑕疵が存在し、これによりYが被った損害の額は266万9,956円である。

 Xは、平成26年3月、本件本訴を提起し、Yは、同年6月、本件反訴を提起した。Xは、同年8月8日の第1審口頭弁論期日において、Yに対し、本訴請求に係る請負代金債権を自働債権とし、反訴請求に係る瑕疵修補に代わる損害賠償債権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をし、これを反訴請求についての抗弁として主張した。

原審の判断

 原審は、以下のとおり、Xによる相殺を認めませんでした。

 同時履行の関係に立つ本訴請求債権と反訴請求債権については遅延損害金が発生しないとして、Xの本訴請求を上記請負代金の支払を求める限度で認容し、Yの反訴請求を上記損害の賠償金の支払を求める限度で認容した。

 係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されず、このことは、別訴が併合審理された場合であっても、既判力が抵触する可能性がある以上、異なることはない。本訴原告が、反訴において、本訴における請求債権を自働債権として相殺の抗弁を主張する場合にも、本訴と反訴の弁論を分離することは禁止されていないから、同様に許されないというべきである。したがって、Xが本件相殺の抗弁を主張することは、重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反し、許されない。

最高裁の判断

 最高裁は、Xによる相殺を認めました。

 請負契約における注文者の請負代金支払義務と請負人の目的物引渡義務とは対価的牽連関係に立つものであるところ、瑕疵ある目的物の引渡しを受けた注文者が請負人に対して取得する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、上記の法律関係を前提とするものであって、実質的、経済的には、請負代金を減額し、請負契約の当事者が相互に負う義務につきその間に等価関係をもたらす機能を有するものである。しかも、請負人の注文者に対する請負代金債権と注文者の請負人に対する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、同一の原因関係に基づく金銭債権である。このような関係に着目すると、上記両債権は、同時履行の関係にあるとはいえ、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとはいえず、両債権の間で相殺を認めても、相手方に不利益を与えることはなく、むしろ、相殺による清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を簡明にするものであるといえる。

 上記のような請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権の関係に鑑みると、上記両債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属している場合に、本訴原告から、反訴において、上記本訴請求債権を自働債権とし、上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁が主張されたときは、上記相殺による清算的調整を図るべき要請が強いものといえる。それにもかかわらず、これらの本訴と反訴の弁論を分離すると、上記本訴請求債権の存否等に係る判断に矛盾抵触が生ずるおそれがあり、また、審理の重複によって訴訟上の不経済が生ずるため、このようなときには、両者の弁論を分離することは許されないというべきである。そして、本訴及び反訴が併合して審理判断される限り、上記相殺の抗弁について判断をしても、上記のおそれ等はないのであるから、上記相殺の抗弁を主張することは、重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない。

 したがって、請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に、本訴原告が、反訴において、上記本訴請求債権を自働債権とし、上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許されると解するのが相当である。

 請負代金債権を自働債権として瑕疵修補に代わる損害賠償債権と相殺する旨の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の請負残代金債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負うと解される。

 以上説示したところによれば、本訴請求は、本件相殺後の請負残代金562万1,800円及びこれに対する本件相殺の意思表示をした日の翌日である平成26年8月9日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の本訴請求及び反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。


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