株券発行会社の株式の譲渡に関する最高裁判決を紹介します。
最高裁令和6年4月19日判決
株券発行会社の株式の譲渡に関して、①株券発行前に行われた株式の譲渡が、譲渡当事者間で有効か?が問題になった事案です。
また、②株式の譲受人が、譲渡人の株券発行発行会社に対する株券発行請求権を代位行使できるか?についても争われました。
事案の概要
被上告人X社は、平成16年1月、B社の設立に当たり、その株式200株(「本件株式1」)を引き受け、本件株式1の株主となった。同社は、公開会社でない株券発行会社である。
被上告人X社は、平成24年4月、Aに対し、本件株式1を譲渡し、B社の取締役会は、上記の譲渡について承認した。
また、被上告人Y1は、平成18年5月、B社の募集株式310株を引き受け、当該株式の株主となった。被上告人Y1は、同年8月頃、Bに対し、上記株式のうち240株(「本件株式2」)を譲渡し、同社の取締役会は、上記の譲渡について承認した。同人は、平成25年7月、Cに対し、本件株式2を譲渡し、同社の取締役会は、上記の譲渡について承認した。
B社は、設立以来、株券を発行したことはなかった。
Aは、平成29年10月、本件株式1につき、債権者代位権に基づき被上告人X社のB社に対する株券発行請求権を行使するとして、同社に対し、株券の交付を自己に対してすることを求め、同社から、株券として、原判決別紙3の目録記載の文書(「本件株券1」)の交付を受けた。また、Cは、同月、本件株式2につき、債権者代位権に基づき被上告人Y1の同社に対する株券発行請求権を行使するとして、同社に対し、株券の交付を自己に対してすることを求め、同社から、株券として、原判決別紙2の目録記載の文書(「本件株券2」)の交付を受けた。
Aは、令和2年3月、上告人に対し、本件株式1を譲渡し、本件株券1を交付した。また、Cは、同年7月、上告人に対し、本件株式2を譲渡し、本件株券2を交付した。B社の取締役会は、上記の譲渡についていずれも承認した。
原審の判断
原審は、①について、譲渡当事者間においても株券の交付がない以上、株式の譲渡の効力は生じないと判断しました。
株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、会社法128条1項により、当該株式に係る株券を交付しなければ、譲渡当事者間においても、その効力を生じないから、本件株式1について被上告人X社からAに、本件株式2について被上告人Y1からBに、それぞれ有効に譲渡されたということはできない。
また、株式会社が会社法216条所定の形式を具備した文書を株主に交付したときに初めて当該文書が株券としての効力を有することになると解すべきところ、本件株券1及び2は、株主である被上告人らに交付されたものでないから、株券としての効力を有せず、上告人は本件株式1及び2に係る株券の交付を受けたということはできない。
最高裁の判断
最高裁は、①について、譲渡当事者間では有効であると判断しました。また、②についても認められると判断しました。
会社法は、株主はその有する株式を譲渡することができると規定するとともに(127条)、株式は意思表示のみによって譲渡することができることを原則とするところ、同法128条は、株券発行会社の株式の譲渡について特則を設け、同条2項は、株券の発行前にした譲渡につき、株券発行会社に対する関係に限ってその効力を否定している。そして、同条1項は、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じないと規定しているところ、株券の発行前にした譲渡について、仮に同項が適用され、株券の交付がないことをもって、株券発行会社に対する関係のみならず、譲渡当事者間でもその効力を生じないと解すると、同項とは別に株券発行会社に対する関係に限って同条2項の規定を設けた意味が失われることとなる。また、株券の発行前にした譲渡につき、上記原則を修正して譲渡当事者間での効力まで否定すべき合理的必要性があるということもできない。以上によれば、同条1項は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であると解するのが相当であるというべきである。
したがって、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である。
そうすると、本件株式1の被上告人X社からAへの譲渡は、本件株式1に係る株券の交付がないことをもって譲渡当事者間での効力が否定されることはなく、また、本件株式2の被上告人Y1からBへの譲渡及び同人からCへの譲渡は、本件株式2に係る株券の交付がないことをもって譲渡当事者間での効力が否定されることはないというべきである。
また、株券発行会社の株式の譲受人は、株券の発行前に株式を譲り受けたとしても、当該株式に係る株券の交付を受けない限り、株券発行会社に対して株主として権利を行使することができないから(会社法128条2項)、当該株式を譲り受けた目的を実現するため、譲渡人に対して当該株式に係る株券の交付を請求することができると解される。そうすると、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文(平成29年法律第44号による改正前のもの)により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当である。そして、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができるというべきであり、株券発行会社が、これに応じて会社法216条所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになる。したがって、上記文書につき、株券発行会社に対する関係で株主である者に交付されていないことを理由に、株券としての効力を有しないと解することはできない。そうすると、前記事実関係の下では、本件株券1及び2につき、それぞれA及びCに交付されたことをもって、本件株式1及び2に係る株券としての効力を有しないということはできないから、上記両名から本件株券1及び2の交付を受けた上告人は、本件株式1及び2に係る株券の交付を受けたと認められる余地がある。