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公務員の懲戒処分と退職金に関する最高裁判決③


懲戒免職処分を受けた公務員の退職金の支給の可否を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和7年4月17日判決

 バスの運転手として勤務していたXが運賃等を着服し、懲戒免職処分を受けたことにより、退職金が支給されなかった事案です。

にゃソラ

同じく懲戒免職処分後の退職金の支給の可否が争われた以下の最高裁判決も参照

公務員の懲戒処分と退職金に関する最高裁判決

酒気帯び運転を理由とする懲戒免職処分を受けたことを理由に退職金を支給しないことの可否を判断した最高裁判決を紹介します。

公務員の懲戒処分と退職金に関する最高裁判決②

公務員の公務外の行為を原因とする懲戒処分による退職金不支給処分の可否を判断した最高裁判決を紹介します。

事案の概要

 市公営企業に従事する企業職員の給与の種類及び基準に関する条例14条は、6月以上勤務した職員が退職した場合は、退職手当を支給するが、不都合な行為のあった場合は退職手当を支給しないことがある旨を規定する。

 本件規定は、退職者が懲戒免職処分を受けて退職をした者に該当するときは、管理者は、当該退職者に対し、当該退職者が占めていた職の職務及び責任、当該退職者の勤務の状況、当該退職者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職者の言動、当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、当該退職に係る一般の退職手当等の全部又は一部を支給しない退職手当支給制限処分を行うことができる旨を規定する。

 Xは、平成5年3月頃、市交通局の職員として採用され、同年4月から、Yが経営する自動車運送事業のバスの運転手として勤務していた。Xは、各種表彰歴を有する一方で、乗務中の事故を理由として4件の戒告の処分と2件の注意を受けたことがあるが、本件懲戒免職処分を除き、一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分を受けたことはない。

 Xは、令和4年2月11日の勤務中、乗客から5人分の運賃(合計1,150円)の支払を受けた際、硬貨を運賃箱に入れさせた上で、千円札1枚を手で受け取り、その後、これを売上金として処理することなく着服した。

 市交通局は、バスの車内における電子たばこの使用を禁止していたところ、Xは、令和4年2月11日、12日、16日及び17日の乗務に際して、乗客のいない停車中のバスの運転席において、合計5回、電子たばこを使用した。

 本件管理者は、令和4年2月18日、バスのドライブレコーダーにより運転手の業務状況を点検した際、本件非違行為を把握した。Xは、同日、上司との面談において、本件喫煙類似行為をしたことは認めたが、本件着服行為については、当初これを否定し、上司からの指摘を受けてこれを認めるに至った。

 本件管理者は、令和4年3月2日、Xに対し、本件非違行為を理由として、本件懲戒免職処分をした上で、一般の退職手当等(1,211万4,214円)の全部を支給しないこととする本件全部支給制限処分をした。

原審の判断

 原審は、退職金を全部支給しない本件全部支給制限処分の取消しを認めました。

 Xの職務内容は民間の同種の事業におけるものと異ならないこと、本件非違行為によって、実際にバスの運行等に支障が生じ、又は公務に対する信頼が害されたとは認められないこと、本件着服行為による被害金額は1,000円にとどまり、被害弁償もされていること、Xの在職期間は29年に及び、一般の退職手当等の額は1,211万円余りであったこと、Xには、本件非違行為以外に一般服務や公金等の取扱いに関する非違行為はみられないこと等をしんしゃくすると、本件全部支給制限処分は、非違行為の程度及び内容に比して酷に過ぎるものといわざるを得ず、社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱したものとして違法である。

最高裁の判断

 最高裁は、退職金を全部支給しない本件全部支給制限処分の取消しを認めませんでした。

 本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当等について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を管理者の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきである。

 本件着服行為は、公務の遂行中に職務上取り扱う公金を着服したというものであって、それ自体、重大な非違行為である。そして、バスの運転手は、乗客から直接運賃を受領し得る立場にある上、通常1人で乗務することから、その職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され、その観点から、市交通局職員服務規程において、勤務中の私金の所持が禁止されている(20条)。そうすると、本件着服行為は、上告人が経営する自動車運送事業の運営の適正を害するのみならず、同事業に対する信頼を大きく損なうものということができる。

 また、本件喫煙類似行為についてみると、Xは、バスの運転手として乗務の際に、1週間に5回も電子たばこを使用したというのであるから、勤務の状況が良好でないことを示す事情として評価されてもやむを得ないものである。

 そして、本件非違行為に至った経緯に特段酌むべき事情はなく、Xは、それらが発覚した後の上司との面談の際にも、当初は本件着服行為を否認しようとするなど、その態度が誠実なものであったということはできない。

  これらの事情に照らせば、本件着服行為の被害金額が1,000円でありその被害弁償が行われていることや、Xが約29年にわたり勤続し、その間、一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分を受けたことがないこと等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る本件管理者の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。


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