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公社住宅の賃貸借契約について借地借家法32条1項適用の有無を判断した最高裁判決


公社住宅の賃貸借契約について、借地借家法32条1項の適用があるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁令和6年6月24日判決

 地方住宅供給公社が賃貸人である賃貸借契約について、借地借家法32条1項の適用があるか?が問題になった事案です。

借地借家法における賃料の増減

 本件で問題となっている借地借家法32条1項は、借家の賃料の増減請求の規定です。

(借賃増減請求権)

第32条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 建物の賃料が不相当となった場合、当事者は、将来に向かって、賃料の増減を請求することができます。不相当となったかどうか?の判断要素は、以下のとおりです。

借家法32条1項における賃料の「不相当」の判断要素

①土地・建物に対する租税その他の負担の増減

②土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動

③近傍類似の建物の賃料との比較

 なお、一定期間、賃料を増額しないという特約があれば、その特約が優先しますが、他の特約があっても、賃料増減請求は排除されません。

事案の概要

 Xは、地方住宅供給公社法にいう地方住宅供給公社であり、神奈川県内において、多数の住宅を賃貸している。Yらは、それぞれ、Xから一棟の建物の一室を賃借する者である。

 Xは、平成16年4月から平成30年4月までの間、おおむね3年ごとに、Yらに対し、各室の家賃を改定する旨を通知した。その結果、月額3万9,530円ないし5万6,350円であった家賃は、最終的に月額6万1,950円ないし8万6,910円になるものとされた。

 Yらは、Xに対し、本件各家賃改定による家賃の変更のうち適正賃料を超える部分は効力を生じないと主張して、家賃の額の確認を求めるとともに、変更後の家賃を支払ってきたことを理由に不当利得返還請求権に基づいて過払家賃の返還等を求めた。

原審の判断

 原審は、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用がないと判断しました。

 地方公社は、公社法24条の委任を受けた地方住宅供給公社法施行規則16条2項に基づき、その賃貸する住宅の家賃を変更することができ、同項は、借地借家法32条1項に対する特別の定めに当たるから、公社住宅の使用関係について、同項の適用はない旨判断した上、本件各家賃改定による家賃の変更は、公社規則16条2項に基づく有効なものであるとして、Yらの主位的請求を棄却した。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用があると判断し、原審に差戻しました。

 地方公社は、住宅の不足の著しい地域において、住宅を必要とする勤労者に居住環境の良好な集団住宅を供給し、もって住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与することなどを目的とする法人であり(公社法1条、2条)、その目的を達成するため、住宅の賃貸を含む所定の業務を行うことができるものとされている(公社法21条1項、3項)。地方公社の上記業務として賃借人との間に設定される公社住宅の使用関係は、私法上の賃貸借関係であり、法令に特別の定めがない限り、借地借家法の適用があるというべきである。

 そこで、公社住宅の使用関係について借地借家法32条1項に対する特別の定めがあるかをみるに、公社法は、地方公社において住宅の賃貸等に関する業務を行うには、住宅を必要とする勤労者の適正な利用が確保され、かつ、家賃が適正なものとなるように努めなければならないことなどを規定した上(22条)、上記業務を行うときの基準について、「他の法令により特に定められた基準がある場合においてその基準に従うほか、国土交通省令で定める基準に従つて行なわなければならない。」と規定する(24条)。そして、公社規則16条2項は、公社法24条の委任を受けて、「地方公社は、賃貸住宅の家賃を変更しようとする場合においては、近傍同種の住宅の家賃、変更前の家賃、経済事情の変動等を総合的に勘案して定めるものとする。この場合において、変更後の家賃は、近傍同種の住宅の家賃を上回らないように定めるものとする。」と定める。

 公社法の上記各規定の文言に加え、地方公社の上記目的に照らせば、公社法24条の趣旨は、地方公社の公共的な性格に鑑み、地方公社が住宅の賃貸等に関する業務を行う上での規律として、他の法令に特に定められた基準に加え、補完的、加重的な基準に従うべきものとし、これが業務の内容に応じた専門的、技術的事項にわたることから、その内容を国土交通省令に委ねることにあると解される。そうすると、当該省令において、公社住宅の使用関係について、私法上の権利義務関係の変動を規律する借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対し、同項所定の賃料増減請求権とは別の家賃の変更に係る形成権を付与する旨の定めをすることが、公社法24条の委任の範囲に含まれるとは解されない。また、公社規則16条2項の上記文言からしても、同項は、地方公社が公社住宅の家賃を変更し得る場合において、他の法令による基準のほかに従うべき補完的、加重的な基準を示したものにすぎず、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用を排除し、地方公社に対して上記形成権を付与した規定ではないというべきである。このほかに、公社住宅の家賃について借地借家法32条1項の適用が排除されると解すべき法令上の根拠はない。

 以上によれば、公社住宅の使用関係については、借地借家法32条1項の適用があると解するのが相当である。


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