民法改正によって、保証契約について個人の保証人の保護が図られます。事業のために負担した貸金等を主たる債務とする保証契約を取り上げます。
現行民法における保証契約の成立
保証契約は、債権者と保証人になる人との間で成立する契約です。また、保証契約は、当事者の合意のみで成立する諾成契約です。しかし、安易に保証が引受けられてしまい、多額の債務を負うことが問題視されました。そこで、平成16年の民法改正で保証契約は、要式行為とされました。すなわち、保証契約は書面で行わなければ、効力を生じません(民法446条2項)。
事業に係る債務についての保証契約の特則
改正民法では、特に、事業に係る債務についての保証について特則を設け、個人の保証人の保護を図ることにしています。
(公正証書の作成と保証の効力)
第四百六十五条の六 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
2 前項の公正証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 保証人になろうとする者が、次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。
イ 保証契約(ロに掲げるものを除く。) 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
ロ 根保証契約 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、根保証契約における極度額、元本確定期日の定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度において元本確定期日又は第四百六十五条の四第一項各号若しくは第二項各号に掲げる事由その他の元本を確定すべき事由が生ずる時までに生ずべき主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
二 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。
三 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
四 公証人が、その証書は前三号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
3 前二項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。
個人の保証人の保護のために、事業のために負担した貸金等を主たる債務とする保証契約においては、保証契約の締結に先立って、公正証書により、保証債務を履行する意思を表示していなければ、保証契約は効力を生じないこととしました。
事業のために負担した貸金等を主たる債務とする保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権を担保するために、個人求償保証がされる場合も同様に、公正証書による意思表示が必要です。
経営者保証の適用除外
いわゆる経営者保証については、上記の規定は適用されません。
(公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外)
第四百六十五条の九 前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。
一 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
二 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者
イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者
ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者
三 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者
事業のために負担した貸金等を主たる債務とする保証契約を経営者が保証人になろうとする場合は、公正証書によって意思表示をする必要はありません。
また、465条の9第3号は、主たる債務者の配偶者についても適用除外にしています。配偶者保証を禁止すると、中小事業者が金融機関から融資を受けられなくなるのではないか?という懸念を考慮したものと解されます。
もっとも、適用除外される配偶者は、主たる債務者が行う事業に現に従事している者に限定されます。