管理契約を締結していない別荘地の土地所有者に対して、管理費相当額の不当利得返還請求を認めた最高裁判決を紹介します。
最高裁令和7年6月30日判決
不動産管理会社が、同社と管理契約をしていない別荘地の土地所有者に対して、管理業務により法律上理由のない利益を得たとして、不当利得返還請求訴訟を提起した事案です。
別荘地の所有者は、契約をしていない不動産管理会社に対して、管理費を支払わなければならないのか?が争点になりました。
事案の概要
Xは、不動産の管理業等を目的とする株式会社である。
本件別荘地は、栃木県那須塩原市に所在する多数の土地及び道路等の施設から成る別荘地である。
Xは、本件別荘地内に土地を所有する本件別荘地所有者との間において、個別に本件管理契約を締結し、本件別荘地において、本件管理契約に基づく本件管理業務を行っている。その内容は、①道路、側溝及びマンホール等の雨水排水設備、街路灯、消火栓、ゴミ集積所等の保全及び維持管理、②毎日2回のパトロール実施、道路ゲートの開閉管理、関係者以外の立入り防止、天災地変時の見回り点検、③道路両脇の雑草の刈込み作業、U字溝内部の清掃作業である。
本件管理契約によれば、本件別荘地所有者は、本件管理業務に対し、本件別荘地内の土地1区画当たり年額3万6,000円(消費税別。ただし、1区画の面積が350㎡を超える場合は年額102円/㎡(消費税別)を加算する。)の管理費を支払うものとされている。
亡Aは、昭和52年、本件別荘地内にある本件土地を取得したところ、令和元年に死亡し、本件土地はY1が相続し、亡Aの債務はY1らが法定相続分に従い相続した。亡A及びY1は、本件土地上に建物を建築しておらず、本件土地を利用していない。また、亡Aらは、Xとの間において本件管理契約を締結したことはなく、上記管理費を支払ったこともない。
原審の判断
原審は、Xの不当利得返還請求を認めませんでした。
本件管理業務は本件土地の経済的価値を維持又は向上させるものではなく、また、本件管理業務の提供を望んでいない亡Aらに対して費用を負担させることは契約自由の原則に反するから、亡AらはXに対し本件管理業務について不当利得返還義務を負わない。
最高裁の判断
最高裁は、原審の判断を覆し、Xの不当利得返還請求を認めました。
本件土地は本件別荘地内の土地の1区画であるところ、本件別荘地は多数の土地及び道路等の施設から成る大規模な別荘地として開発され、現在も別荘地として利用されていることが明らかである。そして、Xは、本件別荘地所有者との間で個別に本件管理契約を締結し、本件別荘地において継続的に本件管理業務を提供しているところ、その内容は、本件別荘地を支える基盤となる施設を本件別荘地所有者による利用が可能な状態に保全及び維持管理し、本件別荘地内の土地や上記施設に対する犯罪や災害による被害の発生等を予防し、本件別荘地の環境や景観を別荘地としてふさわしい良好な状態に保つものである。これらによれば、本件管理業務は、本件別荘地が別荘地として存続する限り、その基本的な機能や質を確保するために必要なものであり、また、本件管理業務は、本件別荘地の全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼすものであって、本件管理契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難な性質のものであるということができる。そうすると、Xの本件管理業務という労務は、本件別荘地内の土地に建物を建築してその土地を利用しているか否かにかかわらず、本件別荘地所有者に利益を生じさせるものであるというべきである。そして、本件管理業務に要する費用は、本件別荘地所有者から本件管理業務に対する管理費を収受することによって賄うことが予定されているといえるから、亡Aらからその支払を受けていないXには損失があるというべきである。
以上によれば、亡Aらは、本件管理契約を締結することなくXの本件管理業務という労務により法律上の原因なく利益を受け、そのためにXに損失を及ぼしたものと認められる。このことは、本件管理業務が本件土地の経済的価値それ自体を維持又は向上させるものではなかったとしても変わるものではない。
そして、上記の本件管理業務の内容、性質に加え、亡Aは、本件別荘地が別荘地であることを認識して、その1区画である本件土地を取得したことは明らかであること、本件管理契約を締結していない本件別荘地所有者が本件管理業務に対する管理費を負担しないとすると、これを支払っている本件別荘地所有者との間で不公平な結果を生ずることになるほか、本件管理業務に要する費用を賄うための原資が減少して、本件管理業務の提供に支障が生じ、別荘地の基本的な機能や質の確保に悪影響が生ずるおそれがあること、本件管理業務は、本件別荘地所有者が個別になし得るものではなく、地方自治体による提供も期待できないものであって、X以外に本件管理業務を提供することができる者がいることはうかがわれないことも踏まえると、亡AらがXによる本件管理業務の提供を望んでいなかったとしても、本件管理業務に対する管理費として相当と認められる額の負担を免れることはできないというべきである。このように解することが契約自由の原則に反するものでないことは明らかである。
したがって、亡Aらは、Xに対し、本件管理業務に対する管理費として相当と認められる額の不当利得返還義務を負う。