民事訴訟における訴えの取下擬制に関する最高裁決定を紹介します。
最高裁令和5年9月27日決定
XがYに対して損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に提起しました。しかし、X・Yともに、2回連続、口頭弁論期日に出頭しませんでした。
その後、Xが本件訴訟を大阪地裁から東京地裁に移送するよう申し立てました。対するYは、本件訴訟は、訴えの取下げが擬制されていると主張した事案です。
訴訟当事者が、裁判期日に出頭しなかったらどうなる?
民事訴訟の口頭弁論期日(裁判の期日)に当事者が出頭しないと、裁判はどうなるのでしょうか?
当事者の一方のみが不出頭の場合と当事者双方が不出頭の場合で、対応が異なります。ここでは、この最高裁決定に関係する当事者双方が不出頭の場合を説明します。
当事者双方が裁判期日に出頭しない場合
原告・被告の双方が、口頭弁論期日に不出頭の場合、その期日は、通常、何もしません。期日は休止となります。
この場合、1か月以内に期日指定の申立てがなければ、訴えの取下げがあったとみなされます(民訴法263条前段)。また、2回連続で、当事者双方が不出頭の場合も訴えの取下げがあったとみなされます(民訴法263条後段)。
(訴えの取下げの擬制)
第二百六十三条 当事者双方が、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をした場合において、一月以内に期日指定の申立てをしないときは、訴えの取下げがあったものとみなす。当事者双方が、連続して二回、口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日に出頭せず、又は弁論若しくは弁論準備手続における申述をしないで退廷若しくは退席をしたときも、同様とする。
なお、裁判が進行していれば、民訴法上は、証拠調べを行ったり(民訴法183条)、判決を言渡す(民訴法251条2項)ことは可能です。
事案の概要
Xは、大阪拘置所に収容されている死刑確定者であるところ、Yの執筆した雑誌記事により名誉が毀損されたなどとして、Yに対し、不法行為に基づき、損害賠償金等の支払を求める訴訟を同拘置所の所在地を管轄する大阪地方裁判所に提起した。
X及びYは、本件訴訟が第1審に係属した後、適式な呼出しを受けたにもかかわらず、第1回口頭弁論期日及びその次の期日である第2回口頭弁論期日に連続して出頭しなかった。本件口頭弁論期日では、期日を延期し、新たな口頭弁論期日を指定する旨の措置がとられた。
なお、Xは、本件訴訟において、訴訟代理人を選任しておらず、第1回口頭弁論期日及び本件口頭弁論期日に先立ち、拘置所長の許可が得られないため自ら出頭することはできないなどとする上申書を提出していたが、本件口頭弁論期日に至るまでの間に、Xにおいて、訴訟代理人を選任することが具体的に見込まれていたとはうかがわれない。
Xは、本件口頭弁論期日の後、面会した弁護士が東京地方裁判所には出頭し得ると述べたとして、本件訴訟を同裁判所に移送することを求める申立てをした。これに対し、Yは、民訴法263条後段により本件訴訟について訴えの取下げがあったものとみなされると主張した。
原審の判断
原審は、以下のとおり、本件訴訟について、訴えの取下げがあったとはみなされないと判断しました。
本件口頭弁論期日において、審理を継続することが必要であるとして、期日の延期とともに新たな口頭弁論期日の指定がされたのであるから、本件口頭弁論期日は民訴法263条後段の「期日」に当たらず、同条後段の規定にかかわらず本件訴訟について訴えの取下げがあったものとはみなされないと解すべきであると判断した上、本件移送申立てに基づき、本件訴訟を東京地方裁判所に移送すべきものとした。
最高裁の判断
最高裁は、以下のとおり、本件訴訟の訴えの取下げがあったとみなされると判断しました。
民訴法263条後段は、当事者双方が、連続して2回、口頭弁論又は弁論準備手続の期日に出頭しなかった場合、訴えの取下げがあったものとみなす旨規定する。同条後段の趣旨は、上記の不出頭の事実をもって当事者の訴訟追行が不熱心であるとして、訴訟係属が維持されることにより裁判所の効率的な訴訟運営に支障が生ずることを防ぐことにあると解されるが、同法には、上記の場合において、同条後段の適用を排除し、審理を継続する根拠となる規定は見当たらない。そうすると、上記の場合に、審理の継続が必要であるとして、期日を延期して新たな口頭弁論又は弁論準備手続の期日を指定する措置がとられたとしても、直ちに同条後段の適用が否定されるとは解し得ず、同条後段の「期日」の要件を欠くことになるともいえないというべきである。
そして、本件訴訟においては、当事者双方が第1審の第1回口頭弁論期日及び本件口頭弁論期日に出頭せず、訴状の陳述もされていないところ、X(本件訴訟の原告)は、拘置所に収容されている死刑確定者であり、本件口頭弁論期日に至るまで、訴訟代理人を選任する具体的な見込みを有していたともうかがわれないことからすると、Xが主観的に訴訟追行の意思を失っていなかったにせよ、当事者双方が出頭しないことにより裁判所の訴訟運営に支障が生じており、これが直ちに解消される状況になかったことは明らかであり、そのほか訴えの取下げがあったものとみなすことを妨げる事情も見当たらない。そうすると、本件口頭弁論期日において、上記の措置がとられたからといって、同条後段の適用が否定されると解することはできないというべきである。
したがって、本件訴訟について訴えの取下げがあったものとみなされないとした原審の判断には同条後段の解釈適用を誤った違法がある。
本件訴訟について訴えの取下げがあったものとみなされ、本件移送申立ては不適法であるから、原々決定を取り消し、Xの本件移送申立てを却下すべきである。