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株式売買価格決定申立における株式の評価方法


株式売買価格決定申立における株式の評価方法について判断した最高裁決定を紹介します。

最高裁令和5年5月24日決定

 相手方株式会社Aが、抗告人らが有する相手方Aの譲渡制限株式(以下「本件株式1」という。)について、会社法144条2項に基づき売買価格の決定の申立てをし、相手方B株式会社が、抗告人Y及び抗告人Yが有する相手方Bの譲渡制限株式(以下「本件株式2」といい、本件株式1と併せて「本件各株式」という。)について、同様に売買価格の決定の申立てをした事案です。

 本件では、DCF法によって算定された本件各評価額から非流動性ディスカウントを行ったことが妥当か?が問題になりました。

譲渡制限株式の譲渡と株式売買価格決定申立

 株式会社の株主は、原則、所有する株式を自由に譲渡することができます。しかしながら、中小企業などでは、定款によって株式の譲渡を制限(会社法107条1項1号・108条1項4号)していることがめずらしくありません。定款で、譲渡が制限された株式を譲渡制限株式といいます(会社法2条17号)。

 譲渡制限株式を譲渡したい株主は、取締役会又は株主総会、つまり、会社の承認を得なければ、譲渡制限株式を譲渡することはできません。

 株主は、会社に譲渡制限株式の譲渡の承認請求をする際に、併せて、会社が譲渡を承認しない場合は、会社又は会社が指定する買取人が譲渡制限株式を買取るよう請求することができます。この請求を買取先指定請求といいます。

 会社が譲渡制限株式の譲渡を承認せず、株主が買取先指定請求を行った場合、会社又は会社が指定する指定買取人が譲渡制限株式を買い取ります。この場合、譲渡制限株式の価格は、両当事者の協議で決めます(会社法144条1項7号)。協議が調わない場合、当事者が株式売買価格決定の申立てを行うことで、裁判所が価格を決定します(会社法144条2項~4項・7項)。

事案の概要

 相手方らは、平成28年当時、いずれも非上場会社であり、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあった。

 相手方らは、同年2月、本件各株式について、抗告人らから会社法136条の規定による譲渡承認請求を受け、同年3月、抗告人らに対し、その譲渡を承認しない旨を通知した。相手方らは、同年4月、抗告人らに対し、本件各株式を買い取る旨を通知した上で、原々審に対し、本件各申立てをした。

 原審において、本件各株式の1株当たりの売買価格について鑑定が実施されたところ、鑑定人は、次のとおり鑑定意見を述べた。

 本件各株式の評価方法としては、DCF法(将来期待されるフリー・キャッシュ・フローを一定の割引率で割り引くことにより株式の現在の価値を算定する方法をいう。)を用いるのが相当である。DCF法によって本件各株式の1株当たりの評価額を算定すると、本件株式1につき7,524円、本件株式2につき6,448円となる(本件各評価額)。そして、本件各株式の売買価格の算定に当たっては、本件各株式のいずれについても、非上場会社の株式には市場性がないことを理由とする減価(非流動性ディスカウント)として、本件各評価額から30%の減価を行うのが相当である。そうすると、本件各株式の1株当たりの売買価格は、本件株式1につき5,266円、本件株式2につき4,514円となる。なお、DCF法によって本件各評価額を算定する過程において、相手方らの将来期待されるフリー・キャッシュ・フローを割り引く際には、相手方らに類似する上場会社の株式に係る数値を用いることとする。

原審の判断

 原審は、上記鑑定意見に依拠し、本件各評価額から非流動性ディスカウントとして30%の減価を行い、本件株式1の売買価格を1株当たり5,266円、本件株式2の売買価格を1株当たり4,514円と定めた。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、DCF法によって算定された本件各評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると判断しました。

 会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続は、株式会社が譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合に、譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたものである。そうすると、上記手続により譲渡制限株式の売買価格の決定をする場合において、当該譲渡制限株式に市場性がないことを理由に減価を行うことが相当と認められるときは、当該譲渡制限株式が任意に譲渡される場合と同様に、非流動性ディスカウントを行うことができるものと解される。このことは、上記譲渡制限株式の評価方法としてDCF法が用いられたとしても変わるところがないというべきである。

 もっとも、譲渡制限株式の評価額の算定過程において当該譲渡制限株式に市場性がないことが既に十分に考慮されている場合には、当該評価額から更に非流動性ディスカウントを行うことは、市場性がないことを理由とする二重の減価を行うこととなるから、相当ではない。しかし、前記事実関係によれば、本件各評価額の算定過程においては、相手方らに類似する上場会社の株式に係る数値が用いられる一方で、本件各株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれない。

 したがって、DCF法によって算定された本件各評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると解するのが相当である。


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