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消費者裁判手続特例法の共通義務確認の訴えに関する最高裁判決


消費者裁判手続特例法の共通義務確認の訴えに関する最高裁判決を紹介します。

令和6年3月12日判決

 特定適格消費者団体が、消費者に対して虚偽又は実際とは著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明をして商品を販売するなどしたことが不法行為に該当すると主張し、本件対象消費者に対して上記商品の売買代金相当額等の損害賠償義務を負うべきことの確認を求めて、消費者裁判手続特例法2条4号所定の共通義務確認の訴えを提起した事案です。

消費者裁判手続特例法

 消費者裁判手続特例法は、内閣総理大臣の認定を受けた特定適格消費者団体が、消費者に代わって被害者の集団的な回復を求める二段階の訴訟の制度を定めています。

 ちなみに、正式名称は、「消費者の財産的被害等の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」といいます。

共通義務確認訴訟(一段階目)

 一段目の手続きが、共通義務確認訴訟です。事業者が消費者に対して責任(共通義務)を負うか?を判断する訴訟手続きです。

 共通義務確認訴訟で、事業者の責任が認められた場合、二段階目の手続きに進みます。

簡易確定手続(二段階目)

 事業者が、誰に、いくら支払うのか?を確定する手続きです。消費者は、特定適格消費者団体を通じ、債権を届け、その金額を確定させます。

 簡易確定手続に不服がある場合は、適法な異議申立てを行うと、異義後の訴訟に手続きが移行します。

事案の概要

 被上告人会社は、平成28年10月頃、仮想通貨の内容等を解説する第1審判決別紙商品等目録記載の商品①(仮想通貨バイブルと称するDVD5巻セット)及び同目録記載の商品②(①にVIPクラスと称する複数の特典を付加したもの)の購入を勧誘するためのウェブサイトを設け、これらの商品の販売を開始した。なお、本件商品の価格は、4万9,800円又は5万9,800円であり、本件商品の価格は、9万8,000円であった。

 本件ウェブサイトには、商品①②について説明し、その購入を勧誘する文言として、「ハイパーミリオネア・Yが参加者にわずか3ヶ月で16億円稼がせた“秘密の手続き”で日本人全員を億万長者にする歴史的プロジェクトが遂に始動!」、「これからあなたに実践者がたった半年ほどの間に16億円も稼いでしまった日本初公開の最新の方法をお伝えしていこうと思います。すでに実践中の彼らは3年以内に確実に億万長者になると断言します。」、「史上最高のタイミング、史上最高の指導者による塾生に3ヶ月で16億円稼がせたノウハウを完全解説した『仮想通貨バイブル』を公開します…この教材は『暗号通貨で稼ぐ』ことに特化した世界初の教材です。」、「より『確実』に、より『早く』億万長者になりたいという方を対象としたVIPクラスをご用意しました。」等が掲載されていた。

 被上告人会社は、商品①②の購入者に対して、被上告人Yが第1審判決別紙商品等目録記載の商品③(パルテノンコース)を説明する内容の動画を公開して、商品③の販売を開始した。商品③は、購入者にハイスピード自動AIシステムと称するサービス等を提供するものであり、上記購入者が上記システムにログインして投資額等を設定することにより、特定のトレーダーが行う金融取引と同様の取引を行うことができるというものであった。なお、商品③の価格は、49万8,000円だった。

 被上告人Yは、本件動画において、「金融系のシステムが世界で最も進歩している国であるイスラエルのある企業との業務提携が実現し、日本初公開となるシステムを特別に提供することができるようになったのです。」、「あなたがハイスピード自動AIシステムを使ってお金を稼ぐためにやることは簡単な初期設定だけです。」、「AIがあなたの代わりに24時間365日、あなたのお金を増やし続けてくれるのです。」等と説明した。

 本件各商品の購入者数は、商品①が約4,000人、商品②が約1,500人、商品③が約1,200人だった。

原審の判断

 被上告人らによる本件各商品の購入の勧誘等が不法行為となり、これによって、本件対象消費者が誰でも確実に稼ぐことができる簡単な方法があると誤信したとしても、そもそも投資等においてそのような方法があるとは容易に想定し難く、本件対象消費者につき、仮想通貨への投資を含む投資の知識や経験の有無及び程度、本件各商品の購入に至る経緯等の事情は様々であることからすれば、過失相殺について、本件対象消費者ごとにその過失の有無及び割合を異にする。また、本件対象消費者が本件各商品を購入した動機については、誰でも確実に稼ぐことができる簡単な方法があると誤信した場合のほか、そのような誤信をせずに、単に仮想通貨で稼ぐ方法に興味を抱いた場合も想定され、本件対象消費者ごとに因果関係の存否に関する事情も様々である。したがって、本件については、法3条4項にいう「簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるとき」に該当する。

最高裁の判断

 法は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害を集団的に回復するため、共通義務確認訴訟において、事業者がこれらの消費者に対して共通の原因に基づき金銭の支払義務を負うべきことが確認された場合に、当該訴訟の結果を前提として、簡易確定手続において、対象債権の存否及び内容に関し、個々の消費者の個別の事情について審理判断をすることを予定している(2条4号、7号参照)。そうすると、法3条4項により簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であるとして共通義務確認の訴えを却下することができるのは、個々の消費者の対象債権の存否及び内容に関して審理判断をすることが予想される争点の多寡及び内容、当該争点に関する個々の消費者の個別の事情の共通性及び重要性、想定される審理内容等に照らして、消費者ごとに相当程度の審理を要する場合であると解される。

 上告人が主張する被上告人らの不法行為の内容は、被上告人らが本件対象消費者に対して仮想通貨に関し誰でも確実に稼ぐことができる簡単な方法があるなどとして、本件各商品につき虚偽又は実際とは著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明をしてこれらを販売するなどしたというものであるところ、前記事実関係によれば、被上告人らの説明は本件ウェブサイトに掲載された文言や本件動画によって行われたものであるから、本件対象消費者が上記説明を受けて本件各商品を購入したという主要な経緯は共通しているということができる上、その説明から生じ得る誤信の内容も共通しているということができる。そして、本件各商品は、投資対象である仮想通貨の内容等を解説し、又は取引のためのシステム等を提供するものにすぎず、仮想通貨への投資そのものではないことからすれば、過失相殺の審理において、本件対象消費者ごとに仮想通貨への投資を含む投資の知識や経験の有無及び程度を考慮する必要性が高いとはいえない。また、本件対象消費者につき、過失相殺をするかどうか及び仮に過失相殺をするとした場合のその過失の割合が争われたときには、簡易確定手続を行うこととなる裁判所において、適切な審理運営上の工夫を講ずることも考えられる。これらの事情に照らせば、過失相殺に関して本件対象消費者ごとに相当程度の審理を要するとはいえない。さらに、上記のとおり、本件対象消費者が上記説明を受けて本件各商品を購入したという主要な経緯は共通しているところ、上記説明から生じた誤信に基づき本件対象消費者が本件各商品を購入したと考えることには合理性があることに鑑みれば、本件対象消費者ごとに因果関係の存否に関する事情が様々であるとはいえないから、因果関係に関して本件対象消費者ごとに相当程度の審理を要するとはいえない。

 以上によれば、過失相殺及び因果関係に関する審理判断を理由として、本件について、法3条4項にいう「簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるとき」に該当するとした原審の判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある。そして、他に予想される当事者の主張等を考慮し、個々の消費者の対象債権の存否及び内容に関して審理判断をすることが予想される争点の多寡及び内容等に照らしても、本件対象消費者ごとに相当程度の審理を要するとはいえない。


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