報道でも話題になったGPS捜査に関する最高裁大法廷判決を紹介します。
最高裁平成29年3月15日大法廷判決
複数の共犯で行われたとの疑いのある窃盗事件で、組織性の有無・程度、組織内の被告人の役割を含む全容解明のための捜査の一環として、約半年間、自動車等19台に使用者の承諾・令状なしにGPS端末を取付け、その所在を検索し移動状況を把握するGPS捜査が行われたという事案です。
強制捜査と令状主義
今回の最高裁判決を理解するための前提となる知識について簡単に触れておきます。
任意捜査の原則
捜査機関が行う捜査には、任意捜査と強制捜査に分けられます。刑訴法197条1項は、捜査の原則は任意捜査だと規定しています。そして、強制捜査は刑訴法に明文の規定で定められているものしか行うことはできません。強制捜査を強制処分ともいいます。
令状主義
逮捕・差押えなど人権侵害の危険のある強制処分は、捜査機関の判断だけで行うことはできません。必ず、事前に裁判官の審査が要求されます。裁判官の強制処分を認める令状によらなければ、強制処分を許されません。これを令状主義といいます。
憲法33条は「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」と規定しています。
さらに、憲法35条1項は「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない」と規定し、2項は「捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ」と規定しています。
つまり、令状主義は憲法上の要請なのです。
任意捜査と強制捜査
法律の規定がなくても行える任意捜査と、令状主義が要請される強制捜査の区別が問題になります。
最高裁は、強制処分を個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味すると判示しています(最高裁昭和51年3月16日判決)。
したがって、強制処分とは、有形力の行使を伴うもに限られないのです。
何が争点になった?
自動車の使用者の承諾や令状なしに行われたGPS捜査が適法かどうか?ということが直接の争点です。次のように分けて考える必要があります。
最高裁の判断
ようやく、本題にたどり着きました。それでは、今回の最高裁判決の中身を見てみましょう。
①GPS捜査は任意捜査なのか?強制処分なのか?
最高裁は、GPS捜査は強制処分だと判断しました。
GPS捜査は、個人のプライバシー侵害を可能とする機器を密かに装着することで、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法である。
GPS捜査は、個人の意思を抑圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するもので、刑訴法上、特別な規定がなければ許容されない強制処分に当たる。
②令状の必要性
次に、GPS捜査を行うには、現行犯人逮捕等の令状を要しない処分と同視すべき事情があると認めるのは困難なので、令状必要だと判断しました。
③何令状が必要?
GPS端末を取り付けることで対象車両と使用者の所在の検索を行う点で、検証では捉えきれない性質を有することは否定しがたい。
まず、最高裁は検証許可状単独ではGPS捜査を行えないと判断しています。実務上、複数の令状を併用することが認められているのですが…
検証許可状+捜索許可状の併用では、対象車両と罪名を特定しただけでは、被疑事実と関係ない使用者の行動の過剰な把握を抑制できず、令状請求の審査が必要とされている趣旨を満たせないと述べ、検証許可状と捜索許可状の併用でもGPS捜査はできないと判断しています。
④新たな立法が必要
GPS捜査は被疑者に知られてはならず、事前の令状呈示を想定できない。他の手段で手続きの公正が担保されるのなら必ずしも事前の令状呈示は不要である。他の手段としては、一般的には実施可能期間の限定、第三者の立ち合い、事後の通知等がある。どれを選択するかは立法府に委ねられている。
令状に様々な条件を付さなければならないが、事案ごとに裁判官の判断で的確な条件の選択が行われない限り許容できない強制処分を認めることは刑訴法の趣旨に反する。
GPS捜査が有力な捜査手法なのであれば、憲法・刑訴法の諸原則に適合する立法的措置を講じることが望ましい。
以上のように述べ、GPS捜査を行うには、新たな立法が必要だという判断を示しました。この最高裁判決を受け、GPS捜査について、早急に立法化がされることになるでしょう。