相続法改正前の遺留分減殺請求に関する最高裁判決を紹介します。
最高裁令和7年7月7日判決
相続法改正前の遺留分減殺請求の事案です。
遺留分権利者から遺留分減殺請求により土地の持分の返還請求を受けた受遺者が、旧民法1041条の価格弁償の意思表示をした場合、土地の持分価格の支払いを命じることができるかが問題になりました。
事案の概要
亡Aは、平成19年9月、Yに亡Aの遺産を相続させること等を内容とする公正証書遺言をし、平成28年12月、死亡した。Yは、上記遺言により、亡Aの遺産を相続した。
亡Aの法定相続人は、いずれも子であるY及びXら外1名である。
Yは、上記遺言に基づき、原判決別紙物件目録記載1及び2の各土地について、相続を原因とする持分移転登記手続をした。
Xらは、平成29年3月、Yに対して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし、上記各土地の持分のほか、預貯金等の一部を取得した。このうち預貯金等の取得額は、X1につき37万3,525円、X2につき171万1,003円である。
Yは、令和5年6月の原審口頭弁論期日において、Xらに対し、本件各持分について、民法1041条1項の規定により価額の弁償をする旨の意思表示をした。
原審の判断
Yに対し、本件各持分についてYがその価額を支払わなかったことを条件とする持分移転登記手続を命ずるとともに、上記価額の支払及びXらが遺留分減殺によって取得した預貯金等の額の支払を命じた。
最高裁の判断
遺留分権利者から遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求を受けた受遺者が民法1041条1項の規定により遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をした場合において、遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をしたときは、遺留分権利者は、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権を遡って失い、これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得するが、遺留分権利者が上記意思表示をするまでは、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権のみを有するものと解するのが相当である。
本件各持分について、Yが価額を弁償する旨の意思表示をしたのに対して、Xらが価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をしたことはうかがわれないから、Xらは、価額弁償請求権を確定的に取得したとは認められず、共有持分権及び共有持分権に基づく現物返還請求権のみを有するものである。