無期転換ルールの例外規定に該当するか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁令和6年10月31日判決
有期労働契約を締結し、大学の教員として勤務していたXが、労働契約法18条1項により、Yとの間で期間の無期労働契約が締結されたとして、Xが、Yに対し、労働契約上の地位の確認及び賃金等の支払を求めた事案です。
Xが、大学の教員等の任期に関する法律(任期法)4条1項1号の教育研究組織の職に当たり、無期転換ルールの例外が適用されるのか?が争われました。
無期転換ルール
有期労働契約が更新されて、通算5年を超える労働者は、無期労働契約締結の申込みをすることができます(労働契約法18条)。
労働者が無期労働契約締結の申込みを行った場合、使用者はその申込みを承諾したものとみなされます。つまり、使用者は、申込みを拒絶することはできません。
無期転換ルールの詳細は、以下の記事参照
大学教員等任期法
無期転換ルールを定めた労働契約法18条の例外を定めた法律の一つが、大学教員等任期法です。
学年や学期ごとに雇用される大学の非常勤講師に無期転換ルールを適用すると、若手研究者等の雇用の機会やキャリア形成を狭めてしまうのでは?という懸念に基づくものです。
大学教員等任期法は、無期転換申込権の発生のための通算期間を10年とする例外を定めています(任期法7条1項)。
事案の概要
任期法5条1項は、学校法人は、その設置する大学の教員について、同法4条1項各号のいずれかに該当するときは、労働契約において任期を定めることができる旨を規定し、同項1号は、「先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性に鑑み、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき」を掲げている。
労働契約法18条1項前段は、通算契約期間が5年を超える労働者が、使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす旨を規定し、任期法7条1項は、同法5条1項の規定による任期の定めがある労働契約を締結した教員の当該労働契約に係る労働契約法18条1項の規定の適用については、同項中「5年」とあるのは、「10年」とする旨を規定している。
Yは、本件大学を設置する学校法人である。Yは、平成24年12月、本件大学の人間生活学部人間生活学科生活福祉コースの4名の専任教員のうちの1名の退任に伴い、その後任となる専任教員を募集した。Yは、その際、介護福祉士等の資格を有し、当該資格取得後5年以上の実務経験を有することを応募条件とし、初回の契約期間は3年で、更新は1回に限るものとしていた。
Xは、上記の募集に応じ、平成25年3月4日、Yとの間で、契約期間を同年4月1日から平成28年3月31日までの3年間とし、専任教員として勤務する旨の本件労働契約を締結した。Xは、平成25年4月1日から生活福祉コースの本件講師職に就き、介護福祉士の養成課程に係る演習、介護実習、レクリエーション現場実習、論文指導、卒業研究といった授業等を担当し、知識と技術等の教授に当たった。本件大学に係る教員の任期に関する規則には、任期法5条1項の規定により任期を定めて雇用する教員として、人間生活学部の講師が掲げられていた。
XとYは、平成28年4月1日頃、契約期間を同日から平成31年3月31日までの3年間とし、再度の更新をしないものとして、本件労働契約を更新した。
Xは、平成30年11月4日、Yに対し、本件労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約の締結の申込みをした。
原審の判断
原審は、X・Y間の労働契約の無期転換を認めました。
Yにおいて、本件講師職に就く者を定期的に入れ替えることが合理的といえる具体的事情は認められず、むしろ安定的に確保することが望ましいといえること、Xが担当していた授業等の内容に照らすと本件講師職には介護分野以外の広範囲の学問に関する知識や経験は必要とされず、担当する職務に研究の側面は乏しいといえることからすると、本件講師職が任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職に当たるということはできない。
最高裁の判断
最高裁は、原審の判断を覆し、X・Y間の労働契約の無期転換を認めませんでした。
任期法は、4条1項各号のいずれかに該当するときは、各大学等において定める任期に関する規則に則り、任期を定めて教員を任用し又は雇用することができる旨を規定している(3条1項、4条1項、5条1項、2項)。これは、大学等への多様な人材の受入れを図り、もって大学等における教育研究の進展に寄与するとの任期法の目的(1条)を踏まえ、教員の任用又は雇用について任期制を採用するか否かや、任期制を採用する場合の具体的な内容及び運用につき、各大学等の実情を踏まえた判断を尊重する趣旨によるものと解される。そして、任期法4条1項1号を含む同法の上記各規定は、労働契約法18条1項の特例として任期法7条が設けられた際にも改められず、上記の趣旨が変更されたものとも解されない。そうすると、任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職の意義について、殊更厳格に解するのは相当でないというべきである。
上記事実関係によれば、生活福祉コースにおいては、Xを含む介護福祉士等の資格及びその実務経験を有する教員により、介護実習、レクリエーション現場実習といった授業等が実施されており、実務経験をいかした実践的な教育研究が行われていたということができる。そして、上記の教育研究を行うに当たっては、教員の流動性を高めるなどして最新の実務経験や知見を不断に採り入れることが望ましい面があり、このような教育研究の特性に鑑みると、上記の授業等を担当する教員が就く本件講師職は、多様な知識又は経験を有する人材を確保することが特に求められる教育研究組織の職であるというべきである。
したがって、本件講師職は、任期法4条1項1号所定の教育研究組織の職に当たると解するのが相当である。