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事業場外のみなし労働時間制に関する最高裁判決(残業代請求の判例)


事業場外のみなし労働時間に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁令和6年4月17日判決

 残業代の請求に関して、事業場外のみなし労働時間(労基法38条の2第1項)が適用されるか?が問題となった事案です。

にゃソラ

事業場外のみなし労働時間制については、以下の「事業場外のみなし労働時間制」を参照

事業場外のみなし時間制(残業代請求の争点)

残業代請求で問題になることもある事業場外のみなし時間制の概要を解説します。

事案の概要

 Xは、平成28年9月、外国人の技能実習に係る監理団体であるYに雇用され、指導員として勤務したが、同30年10月31日、Yを退職した。

 Xは、自らが担当する九州地方各地の実習実施者に対し月2回以上の訪問指導を行うほか、技能実習生のために、来日時等の送迎、日常の生活指導や急なトラブルの際の通訳を行うなどの業務に従事していた。

 Xは、本件業務に関し、実習実施者等への訪問の予約を行うなどして自ら具体的なスケジュールを管理していた。また、Xは、Yから携帯電話を貸与されていたが、これを用いるなどして随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることはなかった。

 Xの就業時間は午前9時から午後6時まで、休憩時間は正午から午後1時までと定められていたが、Xが実際に休憩していた時間は就業日ごとに区々であった。また、Xは、タイムカードを用いた労働時間の管理を受けておらず、自らの判断により直行直帰することもできたが、月末には、就業日ごとの始業時刻、終業時刻及び休憩時間のほか、訪問先、訪問時刻及びおおよその業務内容等を記入した業務日報をYに提出し、その確認を受けていた。

原審の判断

 原審は、以下のとおり、事業場外のみなし労働時間の適用を否定し、Xの残業代の請求を一部認めました。

 Xの業務の性質、内容等からみると、YがXの労働時間を把握することは容易でなかったものの、Yは、Xが作成する業務日報を通じ、業務の遂行の状況等につき報告を受けており、その記載内容については、必要であればYから実習実施者等に確認することもできたため、ある程度の正確性が担保されていたといえる。現にY自身、業務日報に基づきXの時間外労働の時間を算定して残業手当を支払う場合もあったものであり、業務日報の正確性を前提としていたものといえる。以上を総合すると、本件業務については、本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえない。

最高裁の判断

 最高裁は、原審の判断を覆し、事業場外のみなし労働時間の要件の「労働時間を算定し難いとき」に当たるか?の審理を尽くさせるため、原審に差戻しました。

 本件業務は、実習実施者に対する訪問指導のほか、技能実習生の送迎、生活指導や急なトラブルの際の通訳等、多岐にわたるものであった。また、Xは、本件業務に関し、訪問の予約を行うなどして自ら具体的なスケジュールを管理しており、所定の休憩時間とは異なる時間に休憩をとることや自らの判断により直行直帰することも許されていたものといえ、随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることもなかったものである。

 このような事情の下で、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等を考慮すれば、Xが担当する実習実施者や1か月当たりの訪問指導の頻度等が定まっていたとしても、Yにおいて、Xの事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易であったと直ちにはいい難い。

 原審は、XがYに提出していた業務日報に関し、①その記載内容につき実習実施者等への確認が可能であること、②Y自身が業務日報の正確性を前提に時間外労働の時間を算定して残業手当を支払う場合もあったことを指摘した上で、その正確性が担保されていたなどと評価し、もって本件業務につき本件規定の適用を否定したものである。

 しかしながら、上記①については、単に業務の相手方に対して問い合わせるなどの方法を採り得ることを一般的に指摘するものにすぎず、実習実施者等に確認するという方法の現実的な可能性や実効性等は、具体的には明らかでない。上記②についても、Yは、本件規定を適用せず残業手当を支払ったのは、業務日報の記載のみによらずにXの労働時間を把握し得た場合に限られる旨主張しており、この主張の当否を検討しなければYが業務日報の正確性を前提としていたともいえない上、Yが一定の場合に残業手当を支払っていた事実のみをもって、業務日報の正確性が客観的に担保されていたなどと評価することができるものでもない。

 以上によれば、原審は、業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視して、本件業務につき本件規定にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとしたものであり、このような原審の判断には、本件規定の解釈適用を誤った違法があるというべきである。


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