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動産執行において弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中になされた執行処分の有効性を判断した最高裁判決


動産執行において弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中になされた執行処分(売却)の有効性を判断した最高裁判決です。

最高裁令和5年3月2日判決

 Xが、Xを債務者とする動産執行事件において、物資搬送装置一式(本件動産)を買い受けたYに対し、本件動産の売却は無効である等主張して、所有権に基づき、本件動産の引渡し等を求めた事案です。

 弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中になされた本件動産の売却の有効性が、問題になりました。

(強制執行の停止)

第三十九条 強制執行は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。

 債権者が、債務名義の成立後に、弁済を受け、又は弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書

 前項第八号に掲げる文書のうち弁済を受けた旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、四週間に限るものとする。

事案の概要

 Yは、平成28年、Xに対し、XがYの所有する土地を不法に占有しているなどと主張して、上記土地の明渡し及び賃料相当損害金の支払等を求める訴えを神戸地方裁判所尼崎支部に提起した。同裁判所は、同年、Xに対し、上記土地の明渡し及び同年4月1日から上記土地の明渡し済みまで1か月52万0542円の割合による遅延損害金の支払等を命ずる判決を言い渡し、同判決は、その後確定した。

 Yは、平成30年1月12日、神戸地方裁判所尼崎支部執行官に対し、上記判決を債務名義とし、本件損害金の平成29年5月26日時点における未払額199万8,209円の支払請求権等を請求債権として、Xを債務者とする動産執行の申立てをした。

 執行官は、平成30年1月25日、上記申立てに基づき、Xが所有する本件動産を差し押さえた。執行官は、同月26日、本件動産の競り売り期日を同年2月23日午前9時30分と定めたが、その後、これを同年4月20日午前10時に変更した。

 Yは、同月12日、既発生の本件損害金の支払請求権全部が本件動産執行事件の請求債権であるとの誤った前提に立って、執行官に対し、当該請求債権の額が変更になることを知らせるため、「債権額変更上申書」と題する書面を提出した。本件上申書には、本件損害金のうち同年1月分までの全部及び同年2月分の一部についてXから入金があり、その結果、本件損害金の同年4月19日時点における未払額が93万4,177円となる旨が記載されていた。

 執行官は、同月20日、本件動産の競り売り期日を開き、Yに対し、本件動産を代金100万円で売却し、これを引き渡した。

原審の判断

 原審は、本件動産の引渡しを求めるXの請求を一部認容しました。

 本件上申書は、民事執行法39条1項8号にいう債権者が債務名義の成立後に弁済を受けた旨を記載した文書に該当するから、執行官は、本件上申書の提出があった時から4週間、本件動産執行事件の手続を停止しなければならなかった。ところが、執行官は、この間に本件売却をしたものであり、本件売却には瑕疵がある。

 本件売却の上記瑕疵は、重大かつ明白なものであるから、本件売却は、法律上当然に無効である。

最高裁の判断

 最高裁は、弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中になされた執行処分は、当然に無効にならないと判断しました。

 法が執行処分に対する不服申立ての制度として執行抗告及び執行異議の各手続を設けている趣旨に照らすと、執行処分が執行手続に関する法令の規定に違反してされたものであったとしても、当該執行処分は、原則として、上記各手続により取り消され得るにとどまり、当然に無効となるものではないというべきである。

 法は、弁済受領文書の提出があったときに4週間に限って強制執行を停止しなければならないものと規定している(法39条1項8号、2項)。これは、債務名義の成立後に請求債権が弁済されたとしても、その弁済によって直ちに当該債務名義の執行力が排除されるものではないところ、上記弁済をした債務者が、その執行力の排除を求めて請求異議の訴えを提起し、併せて強制執行の停止等を命ずる裁判(法36条1項、39条1項6号、7号)を得るためには相応の時間を要することから、弁済受領文書の提出という簡便な方法により短期間に限って強制執行を停止することとし、もって債務者の便宜を図ることをその趣旨とするものであると解される。このような趣旨に照らせば、執行処分が弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても、当該執行処分の瑕疵は、上記の原則の例外として当該執行処分が当然に無効となるほどに重大なものではないというべきである。このことは、不動産に対する強制競売において、売却の実施の終了後に弁済受領文書の提出があったとしても、原則として手続を停止しないものとされていること(法72条3項)や、動産執行において、弁済受領文書の提出があったとしても、一定の場合には執行官が差押物を売却することができるものとされていること(法137条1項)からも明らかである。

 執行処分が弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされたものであったとしても、そのことにより当該執行処分が当然に無効となるものではないというべきである。

 したがって、本件売却は、弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされたことにより当然に無効となるものではない。

 ちなみに、最高裁は、Yが、執行官に提出した本件上申書は、本件動産執行事件の請求債権の額が93万円余に変更となる旨を知らせる目的で、提出したものであり、弁済受領文書の提出と認められないと判断しています。


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