民法制定以来、債権法が初めて全面的に改正されます。基本的にこれまでの判例を条文に明記するというケースがほとんどなので、現在の実務が大きく変わるということはなさそうです。しかし、中には、大きく変わるものもあります。今回は、報道でも取り上げられている消滅時効を取り上げます。
現行民法の消滅時効期間
現行民法の消滅時効は、債権は10年、債権・所有権以外の財産権は20年が消滅時効期間です(167条)。また、商事債権の消滅時効期間は5年間です(商法522条)。
以上が原則です。しかし、民法は1年から5年の短期消滅時効を規定しています。短期消滅時効が規定されているのは、受取証書などが交付されないことが多く、交付されても長期間保存されないため、短期間で法律関係を確定させないと、債務者が二重払いを強いられるおそれがあるからだと説明されています。
定期金債権の消滅時効
第1回弁済期から20年または最後の弁済期から10年が消滅時効期間です(168条)。
定期給付債権
5年間が消滅時効期間です(169条)。
3年の短期消滅時効
次の債権は、消滅時効期間が3年の短期消滅時効にかかります。
①医師・助産師・薬剤師の診療・助産・調剤に関する債権(170条1項)
②工事の設計・施工・、監理を業とする者の工事に関する債権(170条2項)
③弁護士・弁護士法人・公証人が職務に関して受け取った書類に関する責任(171条)
2年の短期消滅時効
次の債権は、消滅時効期間が2年の短期消滅時効にかかります。
①弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関する債権(172条1項)
②生産者・卸売商人・小売商人の代金債権(173条1項)
③自己の技能を用い注文を受けて物を製作しまたは自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権(173条2項)
④生徒の教育・衣食・寄宿の代価に関する債権(173条3項)
1年の短期消滅時効
次の債権は、消滅時効期間が1年の短期消滅時効にかかります。
①月またはこれより短い時期で定めた使用人の給与債権(174条1項)
②自己の労力の提供、演芸を業とする者の報酬権、その供給物の代金債権(174条2項)
③運送運賃(174条3項)
④旅館・料理店・飲食店・貸席・娯楽場の宿泊料金・飲食料・席料・入場料・消費物代価・立替金にかかる債権(174条4項)
⑤動産の損料にかかる債権(174条5項)
改正民法の消滅時効
民法が改正されると、消滅時効は次のようになります。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
改正民法では、債権の消滅時効期間が①主観的起算点から5年、②客観的起算点から10年となります。最も、取引から生じた債権で、主たる給付に関するものは、①主観的起算点と②客観的起算点は、通常、一致すると考えられます。
そして、短期消滅時効は廃止されます。また、商事債権の5年の消滅時効も廃止されます。したがって、債権の消滅時効は、原則的に、一律、①主観的起算点から5年、②客観的起算点から10年となります。
賃金請求権の時効は当面の間3年
この民法改正に併せて,製造物責任法や不正競争防止法等の時効期間・起算点に関する規定が改正されます。賃金請求権の消滅時効について規定している労基法115条も改正され,賃金請求権の消滅時効期間も5年となります。
しかし,労基法附則143条2項により,賃金請求権の消滅時効は,当面の間,3年間となります。ただし,退職金については,消滅時効は5年となります。