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警備業法の欠格事由を違憲と判断した最高裁大法廷判決


被保佐人であることを欠格事由としていた旧警備業法の規定を違憲と判断した最高裁大法廷判決を紹介します。

最高裁令和8年2月18日大法廷判決

 成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律(一括整備法)による改正前の警備業法14条、3条1号(本件規定)は、被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めていました。

 保佐開始の審判を受けたため、警備業法上の警備員の欠格事由の発生を解除条件により雇用契約が終了し、退社したXが本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反するとして、国家賠償法1条1項に基づき、国に慰謝料の支払いを求めた事案です。

事案の概要

 警備業法2条1項は、「警備業務」とは、事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務(1号)、人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(2号)、運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務(3号)及び人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務(4号)のいずれかに該当する業務であって、他人の需要に応じて行うものをいう旨を定めている。

 同条4項は、「警備員」とは、警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものをいう旨を定めている。

 警備業法14条は、18歳未満の者又は3条1号から7号までのいずれかに該当する者は警備員となってはならない旨を定め(1項)、警備業者は14条1項に規定する者を警備業務に従事させてはならない旨を定めている(2項)。また、同法3条柱書きは、同条各号のいずれかに該当する者は警備業を営んではならない旨を定めている。一括整備法による改正前の警備業法3条1号は、成年被後見人又は被保佐人等を掲げていた。

 昭和47年以前は、警備業に対して特段の法的規制はされていなかったが、警備業者の増加に伴い、警備先における警備員による窃盗や暴行等の事案が発生していたことを受け、同年7月、警備業務の実施の適正を図ることを目的として、警備業法が制定された。

 その後、警備業は活動領域を拡大させた一方、警備業者による法令違反、警備員の非行等の問題が多発し、警備業務に対する社会的信頼の確保が喫緊の課題となったことを受け、不適格業者の排除、警備員の非行・不祥事の防止、警備員の質的向上を図るため、昭和57年7月、警備業法の改正(昭和57年改正)がされた。昭和57年改正により、警備員の欠格事由(7条)として、禁治産者又は準禁治産者(3条1号)及び精神病者(同条5号)等が掲げられた(本件前身規定)。

 平成11年12月、成年後見制度を導入することを内容とする民法の改正等がされたことに伴い、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律による警備業法の改正がされ、3条1号の「禁治産者若しくは準禁治産者」の文言が「成年被後見人若しくは被保佐人」に改められた。

 平成11年整備法による関係法律の改正前は、禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする規定が150存在したが、同改正により、そのうち公的な機関による選任及び罷免・解任等の個別的な能力審査の手続が整備されている法律に設けられた40余が削除され、残りの110余は成年被後見人等であることを欠格事由とする成年被後見人等に係る欠格条項に改められた。参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際には、政府等は、新たな成年後見制度の実施に当たり、残された成年被後見人等に係る欠格条項について更なる見直しを行うこと等について格段の努力をすべきである旨の附帯決議がされた。

 内閣府に設置された障害者施策推進本部は、平成11年8月の決定「障害者に係る欠格条項の見直しについて」において、資格、免許又は業の許可等の欠格事由として障害者を表す身体又は精神の障害自体を掲げるなどする法令の規定の見直しを行うこととしたが、本件前身規定を含む禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする規定は、見直しの対象とはしなかった。

 平成11年決定において、精神病者であることを警備員等の欠格事由とする警備業法の規定が見直しの対象とされたこと等を受け、平成14年11月、同法の改正がされた。平成14年改正により、同法3条5号の規定のうち精神病者であることを欠格事由とする部分が削除されるとともに、同条7号において、心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるものであることを欠格事由とする規定が設けられた。また、平成15年3月、警備業の要件に関する規則の改正がされ、規則3条1項において、同法3条7号の国家公安委員会規則で定める者は精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする旨が定められた。

 警察庁が公表した警備業者当たりの警備員数の分布の統計によれば、昭和56年6月末時点においては、警備員数100人以下の警備業者が全体の約93%、警備員数10人以下の警備業者が全体の約45%を占め、平成29年末時点においては、警備員数100人未満の警備業者が全体の約90%、警備員数10人未満の警備業者が全体の約35%を占めており、いずれの時点においても中小零細の企業が占める割合が高かった。

 平成18年12月、国際連合総会において、障害者の権利に関する条約が採択され、我が国は、平成19年9月、これに署名した。

 障害者権利条約は、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とし(1条前段)、障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含むと定義し(同条後段)、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること(4条1項柱書き)、並びに、このために、障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること(同項⒝)等を締約国の一般的義務として約束する旨を定めている。また、障害者権利条約は、平等及び無差別(5条)及び法律の前にひとしく認められる権利(12条)に関する条項を設けているほか、労働及び雇用に関し、締約国が、あらゆる形態の雇用に係る全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止すること等の措置をとることにより、労働についての障害者の権利が実現されることを保障し、及び促進すること等を定めている(27条1項⒜)。

 その後、障害者基本法の改正、障害者自立支援法の改正、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法の制定及び障害者の雇用の促進等に関する法律の改等が行われ、障害者権利条約の理念や差別の禁止等に関する基本原則が国内法に反映された。我が国は、これらの国内法の整備を踏まえ、平成26年1月、障害者権利条約を批准した。上記の改正後の障害者基本法は、目的規定において、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである旨を明示し(1条)、障害者について、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいうと定義し(2条1号)、障害を理由とする差別の禁止等に関する基本原則(4条)を定めている。また、障害者差別解消法は、障害者基本法の理念にのっとり、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別の禁止等(7条、8条)を定めており、上記の改正後の障害者雇用促進法は、労働者の募集・採用時及び採用後における障害を理由とする差別の禁止等(34条、35条、36条の2、36条の3)を定めている。障害者差別解消法及び上記の改正後の障害者雇用促進法のうち差別の禁止等に関する部分(障害者差別解消法等)は、約3年の準備期間を経て、平成28年4月に施行された。

 平成22年7月、有識者や関係機関の担当者が参加した成年後見制度研究会において、成年後見制度の運用上の改善策に関する研究報告がされた。同報告において、成年後見の類型は主として財産の処分等に必要な判断能力に照らして決められているのであるから、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえない、成年被後見人等に関する資格制限規定が成年後見制度の利用を阻害する要因となることはできるだけ避けるべきであるなどの見解が示された。

 平成22年10月、成年後見法世界会議において、成年後見制度の適切な利用を訴えるための「成年後見制度に関する横浜宣言」が採択された。同宣言においては、我が国の課題の一つとして、成年後見制度に多く残されている欠格事由は撤廃すべきである、特に後見開始決定に伴う選挙権の剥奪には合理的根拠はなく、憲法で保障された普通選挙の理念に反し、基本的人権を著しく損なうものであるとされた。

 東京地方裁判所は、平成25年3月、成年被後見人である者が、国に対し、次回の衆議院議員及び参議院議員の選挙において投票をすることができる地位にあることの確認を求めた訴訟において、成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた改正前の公職選挙法11条1項1号の規定は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反し、無効であるとして、請求認容の判決をした(平成25年東京地裁判決)。同年5月、上記改正により、上記規定は削除された。

 平成28年4月、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的として、成年後見制度の利用の促進に関する法律が制定され、同年5月、施行された。

 利用促進法は、成年後見制度の利用の促進は、成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと等の成年後見制度の理念を踏まえて行われるものとする旨を定め(3条1項)、基本方針の一つとして、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行う旨を定めており(11条2号)、成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正等の基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上の措置については、利用促進法の施行後3年以内を目途として講ずるものとした(9条)。

 平成29年3月、「成年後見制度利用促進基本計画について」等が閣議決定され、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について、成年後見制度の利用を躊躇させる要因の一つであるとされていること等が指摘された上で、今後、政府において検討を加え、速やかに必要な見直しを行うこととされた。

 内閣府に設置された成年後見制度利用促進委員会は、同年12月、当時170余の法律に設けられていた成年被後見人等に係る欠格条項をいずれも削除し、必要に応じて代替的に個別的・実質的な審査の規定を整備する方針を示した。

 警備業法を所管する警察庁は、平成30年2月、成年被後見人等であることを警備員の欠格事由として定める規定の削除について政策評価を行い、心身の障害がある者の適格性に対する個別的・実質的な審査によって警備業務の特性に応じて必要となる能力の有無を判断する7号規定が既に設けられているため、特段の影響は想定されないと評価した。

 平成30年3月、上記方針により見直しを行った一括整備法に係る法律案が国会に提出され、令和元年6月、一括整備法が成立した。これにより、本件規定を含む成年被後見人等に係る欠格条項は、その大半が削除され、その余も同年中に成立した改正法により削除された。

最高裁の判断

本件規定の合憲性

 最高裁は、改正前の警備業法14条、3条1号が憲法22条1項・14条1項に違反すると判断しました。

 本件規定は、被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めており、被保佐人である者の職業選択の自由を制約するとともに、警備員となる資格について、被保佐人である者と被保佐人でない者とを区別するものである。

 憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障しているところ、こうした職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その同項適合性を一律に論ずることはできず、その適合性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合、上記のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ、その合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得るのであって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものである(最高裁昭和50年4月30日大法廷判参照)。

 また、憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定が、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和39年5月27日大法廷判決、最高裁昭和48年4月4日大法廷判決等)。

 本件規定は、警備員の欠格事由を定め、およそ被保佐人が警備員となってはならないこととするものであるから、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制ではなく、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課すものであって、職業の自由に対する強力な制限となるものである。その上、本件規定は、被保佐人を対象とするものであるところ、保佐開始の審判は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者についてされるものであるから(民法11条)、本件規定は、被保佐人が精神上の障害を有することを理由として上記の制限をするものということができる。このように、本件規定は、障害者である被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とし、精神上の障害を理由として狭義における職業選択の自由そのものを制約するものである。

 以上のような本件規定の内容、性質に照らすと、本件規定の憲法22条1項適合性の判断と憲法14条1項適合性の判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものであるということができるのであって、上記の各条項との関係で本件規定の合憲性を肯定し得るためには、本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものと解するのが相当である。

 本件前身規定及び本件規定の制定の経緯や内容に照らせば、本件規定の目的は、警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者及び第三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあるということができる。このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致するものである。

 この目的のために本件規定のような規制措置を設ける必要があるかどうかや、具体的にどのような規制措置が適切妥当であるかを立法府が判断するに当たっては、警備業務の実態や警備業者の業務態勢、保佐を含む成年後見制度の運用の在り方、同制度が対象とする精神上の障害を有する者を取り巻く状況等の諸事情を踏まえ、警備業務に要求される能力、保佐開始の審判がされる者の能力及び立法目的を達成し得る代替措置の有無等について評価を行う必要があり、こうした評価は一義的に定まるものではないから、上記の立法府の判断には一定の裁量が認められるが、他方で、本件規定が精神上の障害を有することを理由として被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とするとともに、被保佐人の狭義の職業選択の自由を制約するものであることを踏まえると、立法府に広い裁量が認められるものではないというべきである。そして、立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱したと認められる場合には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反することとなる。

 警備先における警備員による窃盗や暴行等の事案が発生していたことを受けて昭和47年に警備業法が制定され、その後、警備業の活動領域の拡大に伴い、警備業者による法令違反や警備員の非行等の問題が多発したことを受けて、警備業務の実施の適正を図るなどの目的のために昭和57年改正が行われたものである。本件前身規定は、上記目的のために、準禁治産宣告を受けた者の判断能力に着目して警備員について欠格事由を定めたものと解される。

 警備業務は、警備員の有形又は無形の影響力によって他人の生命、身体、財産等を守ることを内容とする業務であり、その性質上、他人の権利や自由を侵害しかねず、不適切な警備業務の実施によって国民生活に大きな不安と混乱を与えるおそれがあるという側面を有している。そのため、警備員には、警備業務の実施に伴って発生する様々な事象に対し、適法、妥当かつ臨機応変に対応することが求められ、これに必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行う能力が要求される。

 これに対し、昭和57年改正の当時、準禁治産宣告の対象とされていた心神耗弱者(平成11年民法改正前の民法11条)は、一般に、精神障害の程度が心神喪失のように完全に意思能力を失うまでには至らず、不完全ながら判断能力を有する者をいうと解されていたものである。準禁治産の制度は、精神能力の不完全な者の財産を保護するための制度であることからすると、準禁治産宣告において審査される判断能力は、上記のような警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力と完全に一致するものではないものの、準禁治産宣告を受けた心神耗弱者については、精神障害による判断能力の低下が公的機関である家庭裁判所によって確認されているのであるから、当時の知見の下では、警備業務の適正な実施を期待することができないとみることには相応の合理性があったということができる。しかも、家庭裁判所は、準禁治産宣告をするには、本人の心神の状況について、必ず、医師その他適当な者に鑑定をさせなければならないものとされていたのであるから(平成12年最高裁判所規則第1号による改正前の家事審判規則24条、30条)、準禁治産宣告は、精神医学上の検査や診断に基づく、専門的で信頼性の高い判断であったというべきである。

 他方で、警備業者については、中小零細の企業が圧倒的多数を占めており、上記のように警備業者による法令違反等の問題が多発していた状況の下では、警備員の資質につき警備業者による自発的な維持管理を期待することは困難であったということができる。

 そうすると、昭和57年改正の当時、本件前身規定について、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとした立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない。

 その後、平成11年民法改正により新たに成年後見制度が導入され、これに伴って本件前身規定は本件規定に改められることになった。また、平成14年改正により7号規定が設けられた。

 7号規定は、規則3条1項の規定を併せて考えると、精神機能の障害により判断能力が低下した者を対象とする規定であるということはできるものの、保佐開始の審判のように公的機関による判断がされるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくともその立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難であったというべきである。

 そうすると、平成14年改正の当時においても、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない。

 しかしながら、その後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情は、変化したというべきである。

 すなわち、成年後見制度の導入やその後の利用促進の動きの中で、保佐を含む成年後見制度は、主として財産の処分等に関する判断能力に着目したものとして理解されるようになり、成年被後見人等に係る欠格条項については、成年後見制度の利用を阻害するものとして、その見直しが求められることとなった。また、平成22年には、成年後見制度の運用上の改善策に関する研究報告において、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえないなどと評価されるようになった。そして、平成23年から平成25年にかけて障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備が進められ、平成26年には同批准がされ、その後、平成28年には障害者差別解消法等が施行されるに至った。障害者権利条約の批准に伴い整備された国内法は、障害者の定義を新たなものとした上で、障害者が人権を保障され、尊厳を尊重されるべき旨を明示するなどしており、社会における障害の捉え方の変化等を受けて、福祉や保護を中心とした障害者施策を法的な権利の保障を中心とするものへと転換していく流れを反映させたものであったということができる。これら障害者権利条約の批准やこれに伴う国内法の整備等の一連の動きとあいまって、徐々に障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容することとなった。障害者の労働、雇用との関係でも、障害者差別解消法等の成立から施行までに約3年の準備期間が設けられ、その施行に向けた準備の過程で障害を理由とする差別の禁止等に関する考え方が行政機関等や事業者に周知されるなどしたことにより、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立するに至ったというべきである。また、平成28年に制定された利用促進法においても、障害者権利条約や、その批准に伴い整備された国内法の理念が反映され、成年後見制度の利用の促進に当たって、成年被後見人等が基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられるべきこと等が定められるに至っている。

 その一方で、平成14年改正により設けられた7号規定は、上記のとおり、本件規定の立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難なものであったが、その後、特にその実効性を疑問視させるような事象をうかがうことはできないし、警察庁が平成30年に行った政策評価においては、7号規定が既に設けられているため、本件規定を削除することによる特段の影響は想定されない旨の評価がされているところである。

 以上を総合すると、遅くとも本件退職時点までには、被保佐人のうち警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力を備えた者が本件規定により一律に警備業務から排除されることによる不利益は、もはや看過し難いものとなっており、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を逸脱するに至っていたというべきである。

 したがって、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたというべきである。

国家賠償責任

 もっとも、国会の立法不作為については、国家賠償法に基づく責任を否定しています。

 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり、立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして、上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに同項の適用上違法の評価を受けるものではない。もっとも、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的に、その立法不作為は、同項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである。

 昭和57年改正の当時、本件前身規定は、憲法22条1項及び14条1項のいずれにも違反するものではなかったが、その後、社会における障害の捉え方の変化等の流れを反映して障害者権利条約の批准やこれに伴う国内法の整備、その施行に向けた準備等の様々な事象が積み重なり、徐々に障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したこと等により、本件退職時点において、本件規定は、違憲となるに至っていたものである。こうした変化等は、その性質上、外形的事実として観察することができるものではなく、容易に看取し得るものではない。また、障害者権利条約の批准に伴う国内法整備のうち最終段階に当たる障害者差別解消法等の施行、更には利用促進法の施行が平成28年のことであったことからみても、上記のような考え方が確立したのは、本件退職時点とは相当に近接した時期であったことがうかがわれる。

 本件退職時点までに、成年被後見人等に係る欠格条項の見直しの必要性自体は指摘されていたものの、その指摘は、主として成年後見制度の利用を阻害する要因の除去ないし利用の促進の観点によるものであって、成年被後見人等に係る欠格条項に憲法上の問題があることを理由とするものではなかった。

 また、本件規定の憲法適合性は、本来、警備業務の実施の適正を図るなどの立法目的や、被保佐人であることを警備員の欠格事由とする規制措置の具体的内容に即して検討することを要するものであるところ、本件前身規定が設けられてから本件退職時点に至るまでに、本件規定や本件前身規定の憲法適合性について論じた学説が発表されていたことはうかがわれず、裁判所においてこの点について判断がされたこともなかった。そもそも、その余の成年被後見人等に係る欠格条項についても、本件退職時点までに、憲法上の問題があるとした学説はほとんど存在せず、平成25年東京地裁判決において、成年被後見人が公職の選挙権を有しないとする規定が憲法15条1項等に違反する旨の判断が示されていたものの、同規定と立法目的を異にする職業に関する成年被後見人等に係る欠格条項については、裁判所において違憲である旨の判断がされたことはなかった。

 さらに、平成28年5月に利用促進法が施行された後、成年被後見人等に係る欠格条項の見直しに向けた検討が継続され、170余の法律に設けられた成年被後見人等に係る欠格条項の全てについて統一的な見直しの方針が策定された上で、一括整備法等により、令和元年中にいずれも削除されるに至っている。その見直しを行うに当たっては、欠格条項を設けている各種制度の間の整合性にも配慮しながら検討を進める必要があり、このような検討には相応の期間を要するものであったというべきである。そして、上記のとおり、成年被後見人等に係る欠格条項が設けられた法律が多数ある中で、上記整合性について検討を行うことのないまま、本件規定についてのみ先行して見直しを行うことを要するような事情が存在したことはうかがわれない。

 以上によれば、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできない。したがって、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないというべきである。


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